名古屋の冬の食卓にはひときわ特別な存在感を放つ野菜があります。それは「餅菜(もちな)」。この緑の葉っぱは、名古屋の雑煮を彩る重要な役を担います。今回は、この餅菜を中心に名古屋の雑煮の世界に触れてみましょう。
餅菜はアブラナ科の植物で、見た目は小松菜に似ていますが、色はやや淡い緑。その大きな特徴は、甘みが強く苦味が少ないこと。アクもないためおひたしでも美味しくいただけます。正月に食べることが多いため「正月菜」とも呼ばれています。
名古屋の雑煮は角餅と餅菜を使ったすまし仕立て。食べるときにかつお節を踊らせるのがこの地域ならではのスタイルです。餅菜の甘みとかつお節の旨味が絶妙に絡み合い、冬の寒さを和らげてくれます。
しかし、この餅菜には現代の農業における課題が潜んでいます。品種改良された小松菜と比較すると、餅菜は日持ちが短く、約2~3日で葉が黄色く変わってしまいスーパーの売り場で敬遠されてしまいます。さらに温暖化の影響で餅菜の育つスピードが変化しており、正月向けのため販売期間が短く、保存の難しい餅菜の栽培を生産農家が敬遠する傾向もあります。そのため近年では、小松菜が「正月菜」と正月限定のバッケージで販売されてしまっています。
今回取材させていただいた名古屋みなと農園の坂野さんは、尾張大根のひとつで、白首(根がすべて白色)の方領大根、国産白菜の元祖である野崎白菜などの伝統野菜も育成しています。このような伝統野菜は葉が柔らかく傷みやすい等、運搬や画一的なスーパーの展示・販売には向かないものも多いです。坂野さんは採れたての新鮮な野菜を直売所で販売し、収穫体験会を開催することで、野菜の美味しさを伝えています。
SDGsや地産地消運動などと世でいわれていますが、地元の美味しい野菜を、採れたての最も美味しいタイミングで食卓に乗せたいと改めて感じることができました。「餅は餅菜」といわれる名古屋の雑煮は、地域の文化と食の伝統を色濃く反映しています。
名古屋みなと農園 坂野さん
取材協力ありがとうございました。
(青山信子)