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アネモメトリ -風の手帖-

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#193

鉄の街のやんちゃ青年―ボルタくん―
― 北海道室蘭市

北海道南西部、噴火湾の東端に位置する室蘭市は、古くから鉄鋼業が栄えてきました。半島に囲まれた天然の良港としても知られる室蘭ですが、その起伏に富む地形が勇壮な工場群の姿と相俟って、独特の景観を呈しています。そんな室蘭で、今回ご紹介するボルタが誕生しました。

ボルタの一例。左から、「56番 自転車に乗るボルタ」、「03番 ペットに挑戦のボルタ」、筆者作「元気もりもりのポーズ」

ボルタの一例。左から、「56番 自転車に乗るボルタ」、「03番 ペットに挑戦のボルタ」、筆者作「元気もりもりのポーズ」

ボルタとは、ボルトやナット、ワッシャーなどを組み合わせ、はんだ付けした全長5センチほどのボルト人形のことで、輪西(わにし)地区にある「ボルタ工房」で製作されています。もともと輪西地区は、明治42年に設立された輪西製鐵所(現在の日本製鉄)の企業城下町として発展し、最盛期の昭和40年代には約2万人が住む、たいへんに繫華な地区となりました。しかしその後は徐々に人口減が進み、衰退の一途を辿ります。そんななか、鉄を活用した街の活性化を目指し発足したのが、「ボルタ工房」を運営する「NPO法人テツプロ」でした。そのメンバーや、室蘭工業大学の学生が中心となってボルタが考案され、2006年より一般販売が始まりました。
ボルタは、ドジで飽きっぽいが音楽センスだけは人並み以上の10代男子、というキャラクター設定のもと、現在100種類以上のポーズが製作されており、それぞれに楽しい説明文が付されています。「ボルタ工房」では、全種類のボルタが販売されているほか、ボルタの製作体験(要予約)も行われています。筆者も挑戦してみたところ、部品を曲げてはんだ付けする作業は、シンプルながらもなかなかコツの要るもので、少々てこずりました。ともあれ懇切丁寧な指導のおかげで出来上がったボルタは、やはり愛着もひとしおです。なお、ボルタの情報については、「ボルタ工房」のFacebookやInstagramでも随時発信されています。
少し大げさな言い方かもしれませんが、ボルタは手に取るひとにとって、鉄の街としての室蘭の記憶を呼び覚まし、ひとと鉄との関係の再考を促すきっかけとなるような存在、という気がします。小さくともずしりと重みがあるボルタです。まぁ、ボルタ自身は今日もまた、室蘭の街を愉快に駆け巡っていることでしょうけれど。

ずらりとボルタが並ぶ、ボルタ工房の店内

ずらりとボルタが並ぶ、ボルタ工房の店内

雪が舞う輪西の街並み。後方に見えるのが日本製鉄の工場群(市内の潮見公園展望台より撮影)

雪が舞う輪西の街並み。後方に見えるのが日本製鉄の工場群(市内の潮見公園展望台より撮影)

※ボルタは屑鉄工房の「ボルトマン」など世界中のボルト人形を参考にして製作されたものです。

参考
ボルタ工房
http://www.tetsupro.com/bolta_site/index.html

NPO法人テツプロ
http://www.tetsupro.com/index.html

(加藤綾)