フランスはバカンス大国だと言われます。 とくに夏のバカンス休暇は長く充実している、というイメージをお持ちの方は多いのではないでしょうか。たしかに最低5週間の有給休暇は法律で定められており、都会を離れて家族とゆっくり過ごすのを心待ちにしながら働く人もいます。しかし、そうした制度の恩恵を受けて優雅なバカンスを避暑地で楽しめる国民ばかりとは限りません。
社会全体としては緩やかな経済成長を続けるフランスですが、若い世代に顕著な高い失業率や物価高騰の影響など、余暇にあてられる予算には当然ながら個人差があります。様々な事情からパリに残って夏を過ごす人々にも海辺で過ごすような時間を提供しようと始まったのがパリ市主催のイベント「パリ・プラージュ(Paris Plages)」です。
イベントの会場となるのは、街の中心部を東西に流れるセーヌ川。「プラージュ(砂浜)」という名の通り、川沿いには人工のビーチが設営され、青いパラソルとデッキチェアーが並びます。プロジェクトが始まった当初は遥々ノルマンディー地方から海岸の白砂を運んできて砂浜を再現していたようですが、2017年以降は経費削減と環境への配慮から取り止められて芝生に変更されました。毎年7月から9月までの約2ヵ月間、ビーチのほかプールやアスレチックなどのレジャー体験、青空美術館といった子どもから大人まで楽しめる文化的催しが無料で開放されています。
海のない街パリの川岸につくられたビーチで、本やお酒を片手にまるで海水浴客のように日光浴を楽しむ様子を初めて見たときは都会の喧騒に似付かわしくない不思議な光景に感じられました。しかし、働くことと同じくらい(あるいは、それ以上に?)休むことを大切にするフランス人にとって、パリ・プラージュのようなイベントは日常のなかに非日常の要素を取り入れ、暮らしに潤いを与える都会ならではの工夫だと言えるかもしれません。本イベントは2002年に開催されてからすでに20周年を迎えており、現在ではすっかりパリにおける夏の風物詩となっています。
来年の夏、開催されるパリオリンピックの開会式は陸地にあるスタジアムではなくセーヌ川の水上で行われる予定だと発表されています。どのような景色をセーヌ川が運んできてくれるのか、今後の流れを楽しみにしているのはきっと私だけではないはずです。