新型コロナ感染症の影響で過ごした3年間を経て、今年は各地で祭りの活気が戻ってきました。名古屋でも、5月に「熱田まつり」の花火(註1)が夏の幕開けを告げ、8月には最高気温が37度に達する猛暑の中で、「世界コスプレサミット」が開催されました。このイベントは、アニメや漫画のファンがキャラクターの衣装を身にまとうことで、その世界に没入する楽しみを共有するものです。このコスプレ文化は、名古屋の祭り文化と密接に結びついています。
衣装を着ることでキャラクターの世界観に没入する楽しみは、江戸時代に民衆がハレの日に趣向を凝らした衣装を着て、神社や寺院を訪れていたことにも見られます。この風習が、後のコスプレの原点とも言えます。名古屋は「城と大根と祭は名古屋の名物である。名古屋人は祭と言えば上も下も狂気になって騒ぎ出す。」(註2)と言われるほどに祭りが盛んで、『尾張名所図会(おわりめいしょずえ)』(註3)には仮装したにぎやかな祭りの風景が数多く描かれています。
『尾張名所図会』に描かれた祭りの一つ、「東照宮祭」では、からくり人形の山車(だし)が進む中で、多様な衣装に身を包んだ人々が町を練り歩きます。「馬の頭(おまんと)」は馬を奉納する祭りで、馬も人も奇抜な飾りや衣装を身につけています。約60年に一度行われる「御鍬祭(おくわまつり)」では、巨大なオブジェと共に、奇抜な衣装で踊りながら町を練り歩いたとのことです。これらの多様な趣向を凝らした仮装が、現代において多くの祭りに影響を与え、名古屋の祭りの伝統は各地で受け継がれています。
2023年の10月21日、22日には、名古屋まつりが4年ぶりに完全復活します。名古屋まつりは、戦前の東照宮祭や若宮祭、馬の頭など、様々な祭りを一堂に集め、にぎやかに行われることを目指して、昭和30年から始まりました。からくりが動く山車や、神楽屋形の行列など、歴史と文化を詰め込んだ多彩な行列が、名古屋の町を練り歩く様子は、歴史の息吹を感じさせます。特に郷土英傑行列は、織田信長隊や豊臣秀吉隊、徳川家康隊が、それぞれ奥方や家臣軍で500人以上の隊列を組み、個性豊かな行列を作り上げる(註4)、戦国絵巻を思わせる壮大なるコスプレです。大河ドラマファンの方も、数々の戦国武将が織りなす世界を楽しめることでしょう。
(註1)
熱田まつり(尚武祭)は熱田神宮の例祭で、天皇の勅使が参向される神事です。境内には献灯まきわら(多数の提灯が半球状の屋根の形に吊るされた神輿)が掲げられるなど荘厳な祭りです。夜に千発もの花火があがり、この日から浴衣を着てよいと言われる名古屋特有の文化があります。
(註2)
伊勢門水 『名古屋祭』川瀬代助、1910年、p.380。
門水は名古屋に多くの祭りがあることを「城と大根と祭は名古屋の名物である。名古屋人は祭と言えば上も下も狂気になって騒ぎ出す。大小の神社が多く年百年中祭の仕詰めである。」と記しています。
(註3)
岡田啓・野口道直選、小田切春江他画『尾張名所図会』1844年。
1巻には、東照宮祭の行列の様子が複数ページに渡り描かれています。馬の頭では馬の背に巨大な松の盆栽をお飾りとして乗せているなど、当時の祭りの迫力が伝わります。
(註4)
郷土英傑行列|名古屋まつり
https://www.nagoya-festival.jp/?p=877
(青山信子)