目の前に開けた平原の左手に、州の最高峰マウント・マーシーが見えてきました。その先のS字カーブを過ぎ橋を渡ると、今度は右手に、まちのウェルカムボードが目に入ります。
ここ、ニューヨーク州北部にあるレイクプラシッドでは、かつて2度の冬季オリンピックが開催されました。初回1932年は、その冬季オリンピックの歴史が始まって間もない頃です。1980年2度目の大会当時の施設に加え、最近リニューアルしたオリンピックセンターなど、オリンピック村としての特色が随所に見られます。2023年1月には、ユニバーシアード冬季大会も開かれました。
オリンピック施設の一つでもあるスキージャンプは、先程のS字カーブの脇に立っています。丘の上にある中央棟からラージヒル、隣にはノーマルヒルのジャンプ台が滑り台のように伸びており、その上からは、まちを取り巻く周囲の山々が一望できます。
ここのジャンプ台は2本が隣接しており、一般にイメージされるスキージャンプの形状に限りなく近いといえるでしょう。そのため、競技施設としてだけでなく、造形物としてのユニークさを活用し、冬季スポーツや、レイクプラシッドのシンボルとして、本屋のペーパーバッグのデザイン、土産物として人気のあるカードなどに多用されています。
最寄りに鉄道駅がないため、南から車でまちに入るルートが頻繫に使われますが、スキージャンプはその道路沿い、つまり、まちの入り口で、人を迎えるように立っているのです。ビジターをまちへと誘う目印として、住民には、帰路の終点を告げる空間となります。まちの中心にある公立高校からもジャンプ台は視界に入り、子供たちはその光景を間近に育ちます。ある日故郷を出た後は、スキージャンプを目当てに、懐かしい家族の元へとみずから車を走らせることがあるかもしれません。
競技施設としての目的に加え、ランドマーク的造形物として、地域の人には我が家とオーバーラップする心の拠りどころとしての空間を形成している、レイクプラシッドのスキージャンプです。
(福寿美佐)