名古屋メシと言えば、何を思い出すでしょうか。
「ひつまぶし」、「きしめん」、木曽川を越えた美濃の国、岐阜には、「鮎の赤煮」という郷土料理もあります。
濃厚な味付け、真っ黒なくらいの色合い、煮物の強い照り、こんな名古屋の味を支えてきたのが大豆から作られる“たまり醤油”という醤油でした。
ところが、あまり知られていませんが、これと全く真逆の醤油がもう一つの名古屋の味を支えているのです。白醤油と言います。
名古屋から電車で1時間ほどの三河湾沿いの碧南市。白醤油は19世紀の始め頃、この町で誕生しました。今も市内の醸造蔵で昔ながらの製法で作られています。
この白醤油は、大豆ではなく小麦が主原料で、食材のうま味を引き立たせる脇役に徹した調味料なのです。その特徴は、食材の色を活かす白さに拘り、小麦の爽やかな香りとほんのりとした上品な甘さにあります。特にその白さは、関西で使われている淡口醤油よりさらに白く、この地方では、透明感のあるお吸い物、色どりを愉しむ季節の野菜の煮物など、プロの料理人の仕事に欠かせない調味料となっています。たまり醤油が、こってりした濃い口の「黒の食文化」を作り、白醤油が食材の美しさとうま味を引き立てる「白の食文化」を作る。2つの醤油がそんな名古屋の味文化を創り出したのです。
現在市内には、日東醸造、七福醸造、ヤマシン醸造の3つの醸造蔵が、それぞれに伝わった違う個性の白醤油を提供しています。もともと料理のプロが使うための調味料なので、使い手がその日の食材によって使い分けてきたのだそうです。
さて、碧南市内の「一灯」という日本料理店では、市内の醸造蔵で作られた調味料を素材ごとに使い分け、丁寧に調理された食事を楽しめます。
料理長さんの話では、この醤油を刺身用にお出しする時は、「醤油が魚を選ぶ」ので、舌の肥えた馴染みのお客様には神経を使いますとのことでした。
これからの季節、鱧、アオリイカ、アイナメ、かれい、三河湾の夏の味が楽しめます。
取材にご協力いただいた企業様
七福醸造株式会社
https://www.7fukuj.co.jp/
ヤマシン醸造株式会社
https://www.yamashin-shoyu.co.jp/
日本料理 一灯
https://kobanten.jp/ittou/
(若尾憲治)