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アネモメトリ -風の手帖-

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#199

土澤アートクラフトフェア
― 岩手県花巻市

岩手県土沢(現花巻市東和町)は《裸体美人》で有名な画家、萬鐵五郎(1885-1927)の生地であり、萬鉄五郎記念美術館があります。しかし街の知名度は決して高くなく、美術館を訪れる人も多くありませんでした。その状況に、もっと美術館が街に出て行かなければならない、そして同時に外から訪れる人に東和町の魅力を知って欲しい、そんな声が美術館内から上がります。これがきっかけとなり、館と近くの土沢商店街が中心となって「アートの街」を目指すべく「街かど美術館」が始まります。これは全国から作家を呼び、街に作品を展示するという芸術祭の形式で、数年おきに開催されました(註1)。そしてこの街かど美術館の開催の合間の年に行われるようになったのが「土澤アートクラフトフェア」でした(註2)。これは公募制で、アーティストやクラフターを募り、商店街と美術館前で自身の作品を販売してもらおうというものです。現在は全国から出店の応募が集まり、2日間の来場者はのべ5~6万人にものぼる、一大アートイベントとなっています。実行委員の武政さんにお話を伺いました。

多くの人で賑わう土沢商店街

多くの人で賑わう土沢商店街

アートクラフトフェア(以下フェア)の開催は、街かど美術館とはまた違った挑戦だったと言います。それは商店街の店舗の前で、別のお店(フェアの出店)を開くことになるからでした。例えば街かど美術館にしても、一般的な芸術祭にしても「開催の副次的効果として地元商店街の売り上げに貢献し、その活性化を図る」といった目的はよくあります。しかし同フェアの開催方法でこれはあまり望めません。では土沢の場合、フェア開催にどういった意味を見出しているのでしょうか。
昔は街道が通り、商売が盛んだった土沢地区は、景気もよく常に賑わっていたと言います。「その賑わいを年配の人たちは覚えている。だから街に人が来て、賑やかになるだけでみんな嬉しい」と武政さんはおっしゃいます。現在、年2回の開催となっている同フェア。その開催期間中だけでも商店街が賑やかになり、そこでの昔の思い出が蘇ること、それがこのイベントの開催に対する地元の人々の理解へと繋がっているのです。

商店街のいたる所に設置された出店者のテント

商店街のいたる所に設置された出店者のテント

また、このフェアが特徴的なのは、その運営が有志のみで行われており、行政や観光協会など公的機関は加わっていないという点です。大変なことも多いそうですが、行政主導ではどうしても制限が付きまとうなか、市民による運営は、より地域や出店者に向き合った、柔軟な対応ができることがメリットだと言います。
20回目を迎えた今春の出店公募数は280店舗、それに対し500件以上の応募があったそうです。出店者の選考に関しても、実行委員の趣向に偏らないように気を付けて、幅広く採用していると言います。そこには、このフェアを訪れる多様な人々がそれぞれに、好きなものに出会って欲しい、という思いがあるからです。
こうしてみると、このフェアを巡る人々と、商店街の懐の深さ、温かさを随所に感じることができます。それはこのフェアが行政などによるトップダウンではなく、地域住民の中から芽生え、その手で運営され、またそのことで彼らならではの思考が、しっかりと反映されているためではないでしょうか。出店者、来場者の間に人の繋がりも創出され、双方にリピーターが多いそうですが、それも実行委員会や商店街が作り出すアットホームな環境によるものだと思います。最近はこうした魅力からか、地域外からの若い世代が多数、実行委員会に参加しているそうです。

楽器販売のお店では、飛び入りで参加したお客さんとのセッションも

楽器販売のお店では、飛び入りで参加したお客さんとのセッションも

街かど美術館から始まり、そこから生まれて定着したアートクラフトフェア。一連の流れのなかで、地域住民をはじめ、人々によるたくさんの話し合いと試行錯誤があり、そうして今、この街に合ったアートとの関わり方が実現しているように思えます。
小さな美術館がある小さな街の、商店街で行われる手作りの活動には血が通い、温かく、地域とアートに対する熱い思いが込められています。

この街が元気になるきっかけを与えてくれた萬とその美術館

この街が元気になるきっかけを与えてくれた萬とその美術館

(註1)
現在は形式を改め、作品を入れ替えながら、常時70点ほどの作品を商店などに展示し、いつでも観られるようにしています。

(註2)
実行委員会や地元では、地域を示す場合は「土沢」、その他の名称等で使用する場合は「土澤」と表記を使い分けています。

参考
街かど美術館 – アート@つちざわ<土澤>オフィシャルサイト
http://arttsuchizawa.com/

萬鉄五郎記念美術館
https://www.city.hanamaki.iwate.jp/bunkasports/bunka/yorozutetsugoro/1002101.html

(大矢貴之)