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アネモメトリ -風の手帖-

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#191

幸せを織り上げて
― 岩手県盛岡市

「裂き織」をご存知でしょうか。裂き織とは、古布などを細く裂いたものを緯糸の代わりに使用した織物のことです(註1)。この裂き織を現代の生活に合わせて製造・販売する会社が盛岡市にあります。「株式会社 幸呼来Japan」。この幸呼来(さっこら)とは盛岡の夏祭り、盛岡さんさ踊りの掛け声に由来しており、「幸せは呼べばやって来る」の意味があります。同社は「指定障害福祉サービス事業者」の認定を受けた、障がい者の就労訓練を行う事業所として運営されており、現在は17名の障がい者を含めた、総勢22名のスタッフが裂き織事業に携わっています。

あらかじめ張っておいた経糸に、裂いた布を通して、織り込んでいく

あらかじめ張っておいた経糸に、裂いた布を通して、織り込んでいく

この事業は、同社代表の石頭悦さんが、裂き織の製作をカリキュラムに組んでいた市内の特別支援学校へ勉強会で訪れた際、そこで出会った裂き織の完成度の高さに感銘を受けたこと、そして、これらを製作できる生徒たちには卒業後、その技術を活かす場がないことを知ったことから始まりました。
会社設立から10年が経つ現在では自社ブランドの他、「さっこらproject」を立ち上げ、メーカーから預かったあまり布で裂き織をつくり、これをメーカーが自社製品に取り入れるというコラボレーション事業も展開しています。

オリジナルの商品開発も日々行われている。これは商品化しているネコ用の籠ベットを製作しているところ。  デニム生産時に切り落とす「デニムの耳」を使用し、裂き編みという手法で編む

オリジナルの商品開発も日々行われている。これは商品化しているネコ用の籠ベットを製作しているところ。デニム生産時に切り落とす「デニムの耳」を使用し、裂き編みという手法で編む

障がい者のものづくりというと、つい私たちはアールブリュットと言われるような、感性に基づく自由な創作活動を想像しがちです。しかし、ここで彼らが担っているのは、決められた模様、色彩、寸法にきっちりと仕上げる、納期に合わせるといった、確かな技術に裏打ちされたプロの職人であることが求められる仕事です。
彼らのなかには、障がい者は役に立たない、何も出来ないといった社会の中の潜在的な意識を感じ取ってきた方もいるそうです。しかし、そうした方もここで働くうちに、自分が人の役に立っている、喜んでもらえるということに気付いていくと言います。それは彼らの自信になり、また、働くことの幸せを感じることにも繋がります。
石頭さんは、「障がいのある人自身にも自分が社会や人の役に立てるということをわかって欲しい、そして私たちも彼らを障がい者という目で見ないようにしたい」とおっしゃいます。障がい者には優しくしなければならない、大変だといったイメージや考えは、障がいのない者からみた偏見や上からの目線です。例えばアーティスト活動をする障がい者でなくても、能力のある方は大勢いらっしゃいます。そのことを裂き織を通して知ってもらい、偏見を減らしたい、というのが石頭さんの願いです。大手メーカーとのコラボレーションも、大手が持つ広いシェアによって、裂き織の認知を広めることができますが、その分だけ障がい者への理解が広がる可能性があるというところに、本当の意義があります。ここではどの事業も、裂き織が中心にあるように見えて、実は社会における障がい者への理解促進と、彼らが働く幸せを得ることを目的としているのです。
様々な糸や布を寄り集め、織り上げる裂き織は、多様な人々が暮らし、関わり合うことで成り立つこの世界と似ています。丁寧に織り上げられた裂き織と、そこに込められた思いが広がることで、世界はもっと美しくなるはずです。

棚は鮮やかに織られた生地で溢れる

棚は鮮やかに織られた生地で溢れる

(註1)
古くは、衣類や布団の再利用のために、また木綿が普及してからは貴重なそれを使い切る知恵として、江戸時代の東北地方において始まったとされます。そのしっかりとした厚手の織り上がりから、寒さの厳しい地域を中心に全国的に広まりました。

参考
幸呼来Japan
https://saccora-japan.com/

萩原健太郎著、久野恵一監修(2012)『民藝の教科書② 染めと織り』グラフィック社

(大矢貴之)