阪急茨木市駅から徒歩10分ほど。大通りを抜け、古い木造の家屋や昔の趣きを偲ばせる商店の残る静かな住宅街をしばらく歩いたところに「歯ブラシ専門館」はあります。一見アンティークショップにも見える佇まい。こちらはオリジナルの歯ブラシや、咀嚼訓練によって口腔機能を高める口腔ケア製品を製造販売する「株式会社エーデンタル」の製品のショールームですが、世界中から集められた歯ブラシ約3000本を展示する資料館でもあり、無料で公開されています。
さほど広くはない館内に、所狭しとイギリスのアンティーク家具や大小さまざまなアンティークオルゴール、古い蓄音器などが並び、重厚な飾り棚の引き出しやガラス扉のキャビネットにたくさんの歯ブラシや小さなオルゴールが収納されています。展示されている歯ブラシの多くは子ども用。これらのコレクションは全て「歯ブラシ専門館」の創設者であり、歯科医師であった故・吉原正彦さんが、かつて研究のための海外視察旅行の際に、訪問先でその都度集めてきたものだそう。
歯科医師だった吉原さんは、1960年代から予防歯科の向上に努め、早くから歯科衛生士や歯科技工士養成の重要性も訴えていた歯科医の先駆者でした。また、小児歯科の研究者であり、年齢別の子ども用歯ブラシをメーカーとともに研究開発し、普及させたパイオニアでもあります。そのような歯ブラシの歴史も興味深いものですが、「歯ブラシ専門館」では、展示されている数々のオルゴールの音色を実際に聴くことができるのも魅力的です。
オルゴールは、動力源のゼンマイを巻くことで歯車が回りだし音を奏でます。「歯車がぴったりと噛み合い、スムーズに動くようにメンテナンスをしていれば、100年経っても変わらず美しい音楽を奏でてくれるオルゴールと同じように、人の身体も日々の予防保全やメンテナンスで歯がしっかりと噛み合っていれば、楽しく元気でいられる」と言う現館長の吉原正和さん。予約をすればオルゴールの説明や、歯みがき方法、歯ブラシの選び方、口腔機能を高めることの大切さなども丁寧に教えてくださいます。
美しく響くオルゴールの音色を聴きながら、時を経て今に至る様々な技術の進歩やそれに携わった人々の思いなど、歴史を想像することもゆっくりと楽しめるのが素敵な資料館です。機会があればぜひ立ち寄ってみてください。
株式会社エーデンタル・歯ブラシ専門館
https://www.adental.co.jp/museum/
(酒井千穂)