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アネモメトリ -風の手帖-

風信帖 各地の出来事から出版レビュー

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#185

『農場の少年』が育ったまち
― アメリカ合衆国 ニューヨーク州 マローン 

今から150年以上も前のことになりますが、アメリカ合衆国ニューヨーク州北部マローン近郊に、家族のあたたかな愛情に見守られて育つ一人の少年が住んでいました。世界中で広く親しまれる「インガルス一家の物語」の主人公、ローラの伴侶となるアルマンゾ・ワイルダーです。
インガルス一家よりは明らかに、平均的な家庭と比べても、当時のワイルダー家の生活は恵まれていたようです。周囲からの信頼も厚い父親、料理上手な母親の二人共が働き者で一家を支えます。みずからでは作れないモノは購入し、それ以外はすべて手作りの時代でした。
アルマンゾの父はこの地に移り住み、結婚後6人の子供を授かります。5番目であるアルマンゾは1857年生まれで、その多感な少年時代8–9歳の日々を綴った一冊が『農場の少年』です。
「インガルス一家の物語」
シリーズの中でマイナーな印象の拭えないこの巻ですが、そこに描かれるのは、現代の田園生活や農場の暮らしに継承される習慣や食べ物、行事、今でも米国北東部にみられる気候の特徴を含みます。リンゴ液として紹介されるアップルサイダーは、炭酸は入らずお酒でもなく、アメリカ人なら誰もが知る素朴なリンゴジュースです。その源となるリンゴ畑も多いこの辺りに、ワイルダー一家を悩ませた晩霜が降りることは珍しくありません。アメリカ全土にみられる郡博覧会(カウンティ・フェア)は、物語に描かれた頃と同様に、現在もマローンで開催されています。若干様変わりはしてきたようですが、家畜の品評会あり、アトラクションやフードテントありと、日本の興業イベントに近い雰囲気といえるでしょうか。
「インガルス一家の物語」で唯一その場に現存するアルマンゾの生家は、周囲に再建された建物と共に、歴史や当時の生活の相互教育促進のため、農場記念館として保存公開されています。けれども、物語の中にはこうして現代に当てはまる内容も多いため、昔と今のこの地の生活を同時に学ぶこともできるでしょう。一冊の物語から時を超え、受け継がれてきたシンプルでも知恵のある暮らしや文化に触れて、垣根にもたれて一休み。ふと、アルマンゾ少年と話がしてみたくなりました。

(福寿美佐)

参考
ローラ・インガルス・ワイルダー作、恩地三保子訳(2003年)『農場の少年(Farmer Boy)』福音館書店

アルマンゾ・ワイルダー・ホームステッド(ミュージアム)
https://almanzowilderfarm.com

風信帖11月号写真1_fukuju

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