2020年6月、福岡市中央区大名にオープンした「とかげ文庫」をご紹介します。
百貨店やファッションビルが集中する福岡最大の繁華街・天神の西隣に位置する大名は、小さなエリアですが、個性的なアパレルショップや人気の飲食店が立ち並び、若い人たちを中心にいつも賑わっています。その時々の流行をいち早く取り入れる店も多く、大名のあちこちで行列ができている光景を見かけます。夜中まで賑わうこの地区の、ある雑居ビルの3階にとかげ文庫はあります。
約12坪のスペースに、所狭しと並べられた本棚にはアジアの近現代美術関連の書籍が納められ、天井や棚板のわずかなスペースには、とかげ文庫の主人である後小路雅弘さんが蒐集した様々なコレクションが展示されています。
後小路さんは、福岡市美術館学芸員、福岡アジア美術館学芸課長を務められた後、2002年から九州大学大学院教授として教育・研究活動を続けられました。2020年3月に定年で退職され、現在は北九州市立美術館の館長を務められています。
九州大学を退職される際、これまで指導していた大学院生が研究室の蔵書を使って研究したり、研究会を行ったりする場を確保したいと考えられたそうです。また、教え子でなくとも、これからアジアの美術を研究する若い人たちの役に立てればという思いもあり、交通の便の良い大名の雑居ビルを借り、研究室に置いていた個人の蔵書を移されました。
「アジア美術研究所」という名称でも良さそうな場ですが、「大上段に構える」のが性に合わず、研究活動の拠点であるこの場を「とかげ文庫」と名付けられました。以前、後小路さんがある展覧会の推薦文で、「長いこと美術に関わる仕事をしてきて、大きくて力強く、圧倒的で、感動的な、いわば美術のマッチョでエラソーなありかたに疲れてもいるので、ここは、むしろささやかで、ありふれた、ときに貧相にも見えるような作品を応援したい」と書かれていたのが思い出されました。
後小路さんの教え子で構成される「とかげ一座学芸団」というゆるやかな組織もあり、今後、定期的に展覧会を企画される予定となっています。
恩師に会いに、あるいは展覧会企画のための資料を求めて、あるいはアジア美術研究の助言を求めて、美術に身を置く様々な人が、各々の目的でこの場所を訪れます。賑わいの絶えない大名の雑居ビルの中にあり、アジアの近現代美術研究の重要な拠点でありながら、後小路さんの書斎にいるような不思議な場所です。ゆるやかに開かれたこの場所の在り方に魅力を感じています。
2021年7月には『とかげ通信』という読みものも創刊されました。とても充実した内容です。ホームページから購入することもできるそうです。是非、読まれてはいかがでしょう。
(牛島光太郎)
「とかげ文庫」
https://tokagenofumikura.wixsite.com/bibliothecalizard