2016年4月と5月の特集では、長崎県の雲仙市小浜を取り上げた(#40、#41)。小浜は山海の幸に恵まれた温泉地だが、過疎化が進んでいた。そこに若い世代が移り住んで活動をはじめ、まちが明るく息づいていたのである。
その中心にいたのがデザイナーの城谷耕生さんだ。小浜に生まれ、東京でデザインを学んだのち、1991年にイタリアに渡った。評論家の多木浩二やイタリアデザインの巨匠エンツォ・マーリ、アッキーレ・カスティリオーニなどと交流をもち、2002年に帰国。華々しい経歴を持つ彼が選んだのは、生まれ育ったまちに根ざし、近隣地域の伝統的な工芸や地域の文化をデザインから活性化することだった。
その城谷さんが2020年12月13日に急逝された。長崎県美術館で個展「城谷耕生のプロダクトデザイン – 人と人のつながりから生まれる形 –」が開催されているさなかであった。享年52。STUDIO SHIROTANIを立ち上げてから、2021年で20年になろうとしていた。
城谷さんの仕事はこれから、じっくりと見直されるべきものだろう。本誌ももっと時間をかけて特集を組むことも考えたが、今回はともかく、最後の仕事となった個展を取り上げたかった。そこでは彼の手がけた主なプロダクトが一堂に会している。それらを通して、城谷さんがどのように種をまき、育てていったのか俯瞰できるのではないかと思ったのだ。
取材のさいに伺った言葉を捉えなおしつつ、作品から彼の仕事を眺めてみる。今号ではそのことを試みたい。
展覧会のレポートに、5年ほど前の発言を差し挟むには躊躇もあった。しかし、城谷さんが考え、実践してきたことの根本はずっと変わっていないように思えるのだ。社会的な意識を強く持ち、真摯に地域とかかわったデザイナーの仕事ぶりは温かく、感動的ですらある。
なお、2016年4月(#40) の記事と重複する部分もあるが、あらかじめご了承いただきたい。併せて読むと、城谷耕生とその活動をより深く知っていただけると思う。
- 1)道具とは何かを問いかける「原形」 TIPO(長崎・波佐見焼)1
- 2)職人にデザイナーのセンスと感性を TIPO(長崎・波佐見焼) 2
- 3)過程のオリジナリティ BAICA(大分・竹細工)
- 4)集団で創作する COCCIO(福岡・小石原焼)
- 5)新しい伝統をつくる 扶余プロジェクト(韓国扶余・木工、陶芸)
- 6)未来をまなざすデザイン