3)ZENビルのつながりと調和
昂 KYOTO、PONTE、緙室sen、白haku
入居された順に、ZENビルの4店を紹介していきたい。
ZEN CAFEとほぼ同時にオープンしたのが「昂 KYOTO」。永松仁美さんが営む西洋アンティークと現代作家の器などを扱うショップとギャラリーである。器やカトラリーなど身近な工芸品を中心に、古い建具などを見立てて生活にいかす提案なども行う。一方で、現代の陶芸家や木工家など、京都近隣の作家たちと長くつき合うなかで、時間をかけてつくった品々の展示販売も手がけている。
永松さんは「Zplus」のディレクターも務める。昂 KYOTOの古いものと現代、西洋と日本を自在に行き来し、良きものを現代につなぎ、発展させるスタイルは、Zplusの「ここにしかない」ものづくりにも生かされている。
通りに面した1階に入居したのは、吹きガラスの「PONTE」。ウィンドウに飾られた花器に、野花がさらりと活けてある。何気ないのに、はっとさせられる景色だ。ユニークなかたちや肌合いのうつわや花器などは宙吹きでつくられ、1点1点が異なる。厚みを変えながら泡のような造形にしてみたり、発掘品のように表面を何度も細かく削ってみたりと、豊富なアイデアをもとに、じっくりと手をかけながら、ガラスという素材をしなやかに扱う。
作家は佐藤聡さん、店主は妻の貴美子さん。器や花器の個性を引き立てるしつらいは、ガラス越しに世界を見るような感覚もある。
「緙室(かわむろ)sen」はレザーデザイナー千原けいこさんの店。2階の奥、元あった建物の壁が残る空間はすっきりとモダンで品格がある。バッグや小物類などの商品もまた然り。和の意匠をもちいながら、自由な遊び心が発揮されてもいる。素材は世界じゅうをまわって収集してきた革。つくりたいものにあわせて最適な革を選び、高い技術をもつ職人と仕事をすすめる。使うときの所作なども思い描きながら、それにふさわしい質感や機能性を追い求めていく。革の持つ可能性がひらかれ、イメージが新たに広がる。ハイブランドなどとはまた違う、手仕事の贅沢を味わえる。
2018年、1階の角に入ったのは「白haku」。この店は名前にすべてが込められている。その名に一を乗せたら、百になる。「一」を口にすることで、九十九の幸せに気づく。その心をかたちにしたのが「むしやしない」であり、すべてが調和した心地よい空間である。
また、この場所にあるものひとつ、ひとつから繊細な季節も香る。小さな「一」に気づけば、すでに手にしていた九十九への感謝にもつながる。白はその「一つ」になるべく、むしやしないと一服のお茶を供している。
いずれも、ものづくりの厳しさと向き合いながら、クオリティを高めていくような店である。そして、店主はみな女性。何におもねることなく、良いものをつくることを地道に続けている。さらに、つくったものをそれにふさわしくしつらい、届けることも。店名をことさら宣伝することもなく、主役はあくまでものたちだ。
それぞれの店は互いの仕事を尊重しつつ、ゆるやかにつながっている。展示があれば一番に観に行って商品を購入したり、店でつかう場合もある。それぞれの個性は違っても、トーンが揃っているから、全体がひとつのようにも見える。
オーナーの鍵善ともまめにやりとりをされている。たとえば、来客があればZEN CAFEにお茶とお菓子を持ってきてもらったり、ZENBIのオープンにあわせて企画展を進めたり。それぞれがきわめて大人な、洗練された個でありながら、こまやかで温かなやりとりがあって、風通しがとてもいい。ひと昔前の京都のおつきあいは、こんなふうだったかと思わせる。
以前、善也さんが言っていたことが頭に浮かぶ。
———自分だけでよくなる、ということはないんで。まわりのみなさんとかかわるなかで、みんなでよくなっていくんだと思うんですよね。
ひとつの店のなかの調和があって、それらがほどよくつながり、ビル全体の調和がもたらされる。それによって、この一角によい空気が生まれ、心ある客たちがやってくる。
ZENビルで培われたつながりと調和は、ZENBIにも通じているのではないだろうか。