4)地域にいても会いやすい コロナ禍のポジティブな変化
工房全焼という大惨事からようびは見事に再起した。そしてこれから、ますます仕事の領域を広げていく準備が整いつつあった2020年、今度はコロナ禍に見舞われた。都市から離れた山間の村を拠点とするだけに、移動が制限されることなど、その影響は少なからずあるはずだ。この未知の事態にいま、ようびはどう向き合っているのだろうか。
———コロナ禍による変化として大きいのは、やはり出張が大幅に減ったことですね。わたしは、直接会って関係性をつくることをとても重視しているので、直接の行き来が難しくなったのは残念です。しかし、それが必ずしもマイナスに働いているかというと、そうばかりではありません。というのは、オンラインでのやりとりが浸透したことによって、むしろひとと会いやすくなったからです。わたしたちのように地方にいると、これまでは、みなが東京で集まっているのに自分だけ行けなくて、プロジェクトに参加できなかったり疎外感を抱いたり、ということもありました。逆に、こちらでイベントを開催しても不便さゆえに来てもらうのが難しい、ということも少なからずありました。でも、オンラインが普通になったいま、わたしたちも、意思さえあれば会えるようになりました。いろんなひととすごく近くなった気がしています。東京との関係だけでなく地方どうしの結びつきも増えて、それってポジティブな変化だなと感じます。
リアルで会えないからこそ、より会いやすくなる。リアルで会う価値とのトレードオフでもあるものの、奈緒子さんは、現実をポジティブに捉え、そこに新たな可能性を見出しているようだった。そして仕事も、現状でそれほど減っているわけではない。ただ、彼女の現実を見る目は冷静だ。
———大変になるのはこれからかもしれない、とも思っています。1つの仕事のスパンが長いため、すぐに影響は出なくとも、他の業界が忘れたころにしんどくなる、というのはわたしたちの業界ではあり得る話なんです。でも同時に、人々が家で過ごす時間が増えるのは、それぞれが生活する空間の重要性が高まるということなので、家具などの価値も高まっていくことも想像できます。そして現状をいえば、いま、一緒にやろうって言ってくださる方々は増えています。ようびというチームが成長したためだろうとも思っています。でも、決して楽ではないし、「調子いいです」とも言えません。コロナによる鬱々とした感じが社会にあるし、それに影響を受けているお客さんやスタッフもいます。やはりみな発散しづらいんですよね。そういうのがじわじわと、いろんなことを蝕んでいく感じはあるなあと思います。
ありのままを直視して、いま何ができるかを考える。楽観も悲観もせず、とにかく一歩ずつ前に進もうとする意思が伝わってくる奈緒子さんの言葉は、やはり、大惨事を乗り越えた意味の大きさを感じさせる。しかし、だからといって、あの経験があってよかったなどとは決して簡単には言えないことが、奈緒子さんの一言一言から伝わってきた。
———あの記憶が軽いものになることはないと思うんです。そのときの苦しさは、いまもものすごくリアルに自分の中にあります。火事があったからできたんだ、と言えるくらいには努力をしたし、はた目にはそう見える部分もあるだろうって思います。でも、じゃあもう1回あのような経験をしたいかといえば、二度と嫌だって思います。あの経験があってよかったね、と言われて「うんうん」とは答えられない。もうちょっと小分けでよかったよって。もうちょっと違う方法で、そういう成長はできなかったの? って。