3)素人的な感覚で、誰もが楽しめる環境を
太陽と星空のサーカスin京都
あらためて、そこに行きたくなる、魅力的な市とは何だろうか。
左京ワンダーランドの話を聞きながら思ったのは、並べられる品々と出品者、ライブ、パフォーマンス、そして会場、会場をめぐる実行委員会のメンバーやお客も含めて、その市の要素ひとつ、ひとつの面白さだ。それらが主催者のもと、有機的につながっていくことで、わたしたちは「ここならでは」と感じるのだろう。
別の言い方をするなら、雑多でありつつ、その市らしい空気感があること、だろうか。テイストが揃いすぎることなく、おおらかで、楽にいられる。そして、そこらしいと感じられる。それを支えるのは、実行委員会メンバーの心あるサポートである。
鷹取さんが市を始めるにあたって考えたのは、「誰もが楽しめる」ことだ。それは、今もいちばんに考えることでもある。
———根底にあるのは、出店者さんも楽しんでほしいっていうところ。それはずっと変えたくないですね。それから、買い物をするひとも楽しくなること。イベントって雰囲気がお客さんに伝わるものなので、楽しい雰囲気をつくるために、やっている側が楽しく、気持ちよくできる環境をつくるっていうのが重要かなと。
主催者と出店者のコミュニケーションがよく取れていれば、その風通しの良さが自然とお客にも伝わる。鷹取さんが大事にしているのは、市の当日はもちろん、そこに至るまでの、ていねいなひととのやりとりである。
prinzの市や左京ワンダーランドの企画などを手がけるなかで、鷹取さんは仕事として市の企画を依頼されるようになっていく。
その最初が2015年の「太陽と星空のサーカス」だ。京都・梅小路まちづくり推進協議会が主催のプロジェクトで、会場は京都駅近くの、広々とした梅小路公園。「太陽と星空の下、大人も子供も一緒になって、おいしいものを食べて、好きなものを作って、見て、聴いて、触れて、みんなで楽しもう。」という、3日間にわたる大規模なイベントだった。
鷹取さんは知人を介して、東京のイベント会社の依頼を受け、主に「ワンダーバザール」と名付けられた市のエリアを担当した。
———けっこう規制もあって、先方からリクエストされることも多かったです。それをできるだけ出店者さんの負担にならないようにどう整えるかとか、ビジネス的にならないようにしたい、とかをすごく考えながら、主催者と話をしていました。
一般に、大きなイベントとしての市、あるいはイベントのなかの市を組み立てる際には、先に鷹取さんが言っていたように、出店者も「お客さん」のようになってしまうケースも少なくない。もし、主催者と出店者のあいだで「出しませんか、条件はこれこれです」「はい、出ます」というようなやりとりしかなかったら、他人事のようになってしまっても無理はない。
———やっぱり、みんなが「参加してよかった、やってよかった」という気持ちになれることが大切だと思うんですね。わたしもそうだし、出店者さんもそう。たとえば、企業や行政がついていて、全体としては売上とかがなくても困らない状況でも、出店者さんの売り上げが少なければ、そのひとは困りますよね。なのに、主催者が「ええわ」って思っていたりしたら、出店者さんにいい気持ちで帰ってもらえないな、と。
たとえ組織化されたイベントであったとしても、鷹取さんは出店者や出演者とのつながりを大切に、やりとりを重ねながら場をつくっていくようにつとめている。
一方、大規模なイベントには、新しいチャレンジもある。予算がある程度つく場合は、ライブをしてくれるアーティストを数多く呼べたり、什器もプロにつくってもらえたりする。「やりかた次第」で、市の楽しい部分を増していくこともできるのだ。
太陽と星空のサーカス開催にあたって、鷹取さんが声をかけた出店者は80から100組ほど。身の回りから少し範囲は広げたが、「自分が興味のあるひと、面白いと思うひと、知り合いになりたいひと」という視点は変わらずだ。
———出店者さんは関西圏の広い範囲からも呼んでいました。あとは本当に出店のジャンルとかは超自由だったので、いままでマルシェとか出たことないけどやってみたいっていうような学生さんとか作家さんも積極的に誘ってやっていました。卒展とかに行って、学生さんに声をかけたりとか。
ちなみに、ライブをやってくれたアーティストたちには、ひとりでもじゅうぶん集客できるメンバーもいたが、鷹取さんのモチベーションは自分の興味や関係性であり、収益を上げるという「ビジネス的」なところにはない。いい意味で、素人的な感覚で、キャリアを積み重ねてきたのだと思う。