2)みんなで考え、みんなで行う
左京ワンダーランド
prinzの市は、春と秋の年2回というペースで開催してきた。ワークショップを開くなど、プログラムをより充実させる一方で、ギャラリースペースの展示に合わせた小さな市もこまめに企画していった。
市を開くことによって、自分の好きなひとやものとの関係性を深めながら、小さな経済をまわしていくこともできる。ひとがひとを呼びつながっていく、京都らしい、数珠つなぎのような広がりを鷹取さんはとてもうれしく思っていた。
こぢんまりした市の開催を重ねるなかで、鷹取さんは大きなイベントの一部にかかわるようにもなっていく。
「左京ワンダーランド」は、今もつづく、京都市左京区で展開される一大イベントだ。「左京区」といえば、アーティストや学生を中心に、インディペンデントな精神が息づき、京都のなかでもとりわけ自由なイメージと結びつく。
具体的には、主に左京区内で、個人店中心の飲食店や雑貨店などが参加するスタンプラリーがメインである。「左京から繋がる終らないお祭り」をキャッチフレーズに、ゆるやかなつながりのなかで、さまざまなイベントが催される。中心となる企画は、下鴨神社・糺の森でひらかれる「糺の森ワンダーマーケット」。左京区とつながりのある200店ほどが参加し、食べ物からマッサージ、古道具、クラフト、作品などが並び、パフォーマンスやライブ、紙芝居、相撲などが繰り広げられる。ありとあらゆるものが並ぶ、誰もが楽しめる市だ。
鷹取さんは左京ワンダーランド実行委員会のメンバーから声をかけられ、マーケットの一部を手がけることになった。2011年、prinzで市を始めて2年目のことだった。
———最初は左京区にあるオーガニックカフェ「natural food village」のタッちゃんと、生活雑貨「ちせ」の亮太くん、当時「ガケ書房」で今は「ホホホ座 浄土寺店」の山下さんと、3人が実行委員長でした。実行委員会は会議を重ねていくうちに、「かぜのね」の春山さん、「モアレ」の岡田くん、「古書コショコショ」の梅野くん、「村屋」、「恵文社一乗寺店」の店長だった堀部さんが相談役などで入り、20人ぐらいになるんですけど、わたしは最初から会議もほぼ全部出席していたので、主要メンバーになっていった感じかな。最後の会議とかになると、20人ぐらいいる全員の話を4時間ぐらいかけて聞いて、全員の話を受け入れるみたいな感じでした。すごく大変だったし、終わりがまったく見えないんですが、すごく面白かったです。
左京ワンダーランドのしくみは面白くて。糺の森のマーケットはそのころ、5、6の「星雲」に分かれていて、わたしがリーダーを務める星はわたしが全部仕切っていいんです。エリアだけ任されて、「愛ちゃんの好きなように、好きなお店を選んでいいよ」って言われてお店を集める。だから、出店している200店舗全部とは知り合いじゃないけど、それぞれの星雲の誰かとはつながっている。
主催者がすべて取り仕切るのではなく、主要メンバーが担当エリアを持ち、それらが点在しているのだ。それぞれの「星」で担当者の持ち味を活かしつつ、星座がかたちづくられるような感じといえようか。うまいバランスで成り立つ、まさにワンダーランドだ。
———みんな店のつくり方も上手いんです。短時間で小屋をいくつもつくる、迫力のあるチームがあったり、店先にゴザを敷いて商品を並べているようなかわいい出店者もいたり。混沌としているんですけど、それぞれの個性が光っていて、そこがいいっていうか。
大きなイベントって、お客さんみたいな感じで出店者さんも出店するというか、主催のひとにやってもらっているみたいなところがあるんですが、左京ワンダーランドは自分たちでつくるみたいな感じが強くて、みんなの能力もすごく高いし、すごく気合が入っている。本当に楽しいんですよ。
森のなかで、さまざまな店が、さまざまなかたちで並んでいる。ひとが歌い、踊り、行進したりするお祭りのような空間を、子どもや大人や動物たちが行き交う。この市は、なんでも受け容れるような、おおらかな空気に包まれている。
何度か足を運んだ実感としては、これほどの規模であっても、どこか手づくり感があって有機的に思えた。星雲ごとの「自治」があって、「自分たちのイベント」という感覚があるからだろうか。
そして、鷹取さんにとっては、全体のなかの部分を任されることで、自分のつくる場の個性を自覚する機会ともなった。