8)1億年の土の歴史とスケール感
「今僕らが使ってる土は、1億年前の土なんだって。縄文時代だって1万5千年前でしかない。ひと握りのこの土が1億年前の地球からやってきた。人間は100年生きるだけでもすごいのに」松井さんが言う。壮大な流れのなかで、自分たちは生きている、と。
沖縄の、京都の、イタリアの土をさわりながら、松井さんはきっと、気の遠くなるような時の流れに思いを馳せていたのだろう。土の時間に比べれば、わたしたちの人生などほんの一瞬だ。そのスケール感があってこそ、松井さんの活動は小さな差異にとらわれず、今を起点にはるかな過去とこれからを結び、確かなところへと向かっていけるのだと思う。
松井さんと小山真有さんのユニット「ツーボトル」は、結成当時、このように“宣言” している。「2008年夏、芸術の特権化にも芸術の猫なで声にも組せず、ひたすら芸術と生活の境界に位置する広大な領域に赴き、未然の芸術の発見と交換の場作りを通して日本の芸術の自給率を高めるため、陶芸家松井利夫と美術家小山真有によって結成された」
後編では “芸術と生活の境界に位置する広大な領域”について、松井さんの考える新しい民芸運動「ネオ民芸」を中心に掘り下げていきたい。ものごとの価値を多様に見いだし、大きな循環を考える、とても“太い”思想がそこにある。