6)有田焼を世界にふたたび 大きなビジョン
来年に向けて、好循環の手応えは関わるそれぞれが持っている。鷲崎さんたち県のほうも、想定以上の現実をとても喜ばしく思っている。デザイナーや窯元、商社さんたちとカツ丼を食べながら、鷲崎さんが言う。
——新しいまちのありかたというか、産業のありかたのモデルが生まれていると思うんですね。
16組の窯元さん商社さんもふだんはライバル同士ですが、新しいブランドをつくるということで、みなさん力を合わせて、連帯感を強めてやってもらっている。新しい商品開発というだけじゃなくて、有田焼の窯元さん商社さんの新しい関係だとか、そういうものもどんどんできていると思います。
このプロジェクトに賭けて、窯元さんたちは一生懸命作業している、商社さんたちは売るルートをつくっている。これを機に窯元さんが生産拠点を移したり、商社さんは新しく会社を立ち上げようとされています。我々はそこまでは想定できなかったです。どんどん地殻変動が起きてきています。みんな賭けてますよ。窯元さんも商社さんも、ものづくりの新しいありかたをつくっていこうと。
鷲崎さんたち県の担当者もまた、有田のひとたちと新たな関係をむすび、海外のデザイナーたちとも親交を深めている。
——今こんな感じで海外のデザイナーさんが来られていますけど、最初は私たちみんなおっかなびっくりでした。でも去年会って、1週間一緒に滞在して、最後は一緒に露天風呂に入るぐらい仲良くなって。それでデザインを提案していただいて。
その後はミラノサローネで再会して、またミーティングして、今度は「商品開発の打ち合わせをしよう」ってことで来ていただいてます。ものすごい信頼関係ができているんですよ。それをもとにものづくりができているので、すごくいいと思います。去年初めて、16組のデザイナーが来るじゃないですか。来るたびに窯元さんも商社さんも顔を合わせて、そのうちに窯元さんと商社さんにも信頼関係が生まれていく。受け入れをするたびにやらなくちゃいけないことがあるので、それをこなしていくうちにものすごい信頼関係が築かれていったんですね。商品もいいものができると思うんですけど、窯元さん、商社さんの関係もずっと続いていくと思うんで。
柳原さんが隣でうなずきながら、言葉を続ける。
——今回一番よかったのは、昔ライバル同士だった6つの商社が共同で、海外に向けた会社をつくったんですね。2016/ project っていう名前にして。収益のメインはこのプロジェクトの海外での売上なんですけど、各社で差が出たらだめだと言って、OEM *として海外でPRしていたら「こういうのはつくれないか?」って声をかけられて、それもみんなで共同で担当するという。自分たちの会社のブランディングはそれぞれでやってもいいけど、売上は有田のために、としてるんですね。このハードルは高いかなと思っていたんですが、商社のみなさんのほうから逆に提案があったんです。
ことあるごとに、柳原さんは「みんないいひとなんですよ」と言う。ほんとにいいひとばかりなんです、と。実際そうなのだと思うけれど、これだけの大きな好循環のなかにあると、ひとはそれぞれの良いところが引き出され、さらに「いいひと」になっていくのではないだろうか。ありそうでなかなかないことだ。
* original equipment manufacturingの略。発注する側のブランド商品として生産すること。