アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#32
2015.08

状況をデザインし、好循環を生みだす

前編 つくり手と一緒に考え、つくり、発信する
7)ぶれない軸を持ち、「本当に必要なもの」を考える

そののち、1616 / arita japanは思わぬところでも認められることになった。平成28年度の中学2・3年生の美術の教科書に掲載されることが決まったのである。カテゴリーは「つながるデザイン」。たとえ地元で「あれは有田焼じゃない!」と叩かれたとしても、百田さんの言うとおり、「日本の教科書に載ってるんだから認めざるを得ないし、それが時代の流れ」だ。百田さんと柳原さんは一緒にブランド開発をすることで、有田焼の歴史に新たな一歩をしるしたのだった。

柳原さんは、ひとつひとつのプロジェクトを重ねながら、「本当に必要とされる」ものや場をつくってきた。ものは器の場合もあれば、家具のことある。インテリアの提案も、建物のリノベーションもする。さらには世界に向けて発信もする。自身のぶれない軸を持ちながら、求められることに応じて自在に、しなやかにかたちを変える。これ、とカテゴライズできないのが柳原さんの仕事のありかただと思う。

1616 / arita japanをきっかけに、柳原さんは現在、意義深いプロジェクトを手がけている。有田焼の400年を記念する佐賀県の一大記念事業のひとつで、県やオランダが関わるスケールの大きな取り組みだ。名づけて「2016 / project」。1616 / arita japanを手がけたときは思いもよらなかった展開である。
2016年に向けて、プロジェクトは現在進行形で、結果がどうなるかはまだわからない。けれど、最初から世界を見るような、柳原さんならではの視点から始まった有田焼の取り組みは、これまでの日本の伝統産業にはなかった画期的な試みだと思うし、じっさい現場では大きな「好循環」が始まっていて、関わるそれぞれが手応えを感じている。
後編では「好循環」をキーワードに、取り組みのプロセスを紹介していきたい。

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「2016 / project」の拠点、「NEW ADDRESS」。有田の空き家を借りて柳原さんたちが運営している / 窯元が共同運営する大規模な工場

「2016 / project」の拠点、「NEW ADDRESS」。有田の空き家を借りて柳原さんたちが運営している / 窯元が共同運営する大規模な工場

オフェクト GROW
http://www.offecct.se/en/products/sofas/grow

カリモク家具 KARIMOKU NEW STANDARD
http://www.karimoku-newstandard.jp

1616 / arita japan
http://1616arita.jp

2016 / arita
http://www.2016arita.com

構成・文:村松美賀子
編集者、ライター。京都造形芸術大学教員。最新刊に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』。主な著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など。

写真:石川奈都子
写真家。建築、料理、プロダクト、人物などの撮影を様々な媒体で行う傍ら、作品発表も精力的に行う。撮影を担当した書籍に『而今禾の本』(マーブルブックス)『京都で見つける骨董小もの』(河出書房新社)『脇阪克二のデザイン』(PIEBOOKS)『Farmer’s KEIKO 農家の台所』(主婦と生活社)『日々是掃除』(講談社)など多数。