アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#28
2015.04

奥能登の知恵と行事 息づく豊かさ

前編 土地に根ざした学びの場、まるやま組の活動から
7)長く続けるために 感謝の心で「豊かさ」を伝え続ける

2014年、まるやま組のアエノコトは生物多様性アクション大賞を受賞した。
評価されたのは、「日本の文化を大切にする、食べることを通じて生物多様性、自然の恵みに感謝するといった、日本人の忘れかけている大切なことを伝えている」点だ。
まるやま組が自分たちの活動を広く伝えるのは、力になってくれているひとへの感謝を表すため。そして、活動を長くつづけるためでもある。

——ここでの豊かさは価値がある。そう外から評価してもらうことは活動を続けるうえで、意味のあることだと思うんです。金沢大学で植物生態学を研究する伊藤浩二先生は、「まるやまあるき」の日、みんなの活動が終わった後に残って、3時間かけて「まるやま」一帯の植物をモニタリングし、調査報告をまとめ環境省に提出してくださっています。これをまるやま組として4年間続けてこられた、相当な努力だと思います。多彩な生態系が調査結果から伝われば、自然農で頑張っている新井さんの田んぼが豊かであることも伝えることができる。水生昆虫を研究するまるやま組の虫博士、野村進也先生にも、知恵と力を貸してくれている集落のひとたちにも、価値を評価してもらうことで感謝を表したいし、活動も深みが増すように思うんです。

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(上)伊藤先生たちと「まるやまあるき」で採集した植物標本(下)野村先生がまとめた水生昆虫の図鑑の数々

(上)伊藤先生たちと「まるやまあるき」で採集した植物標本(下)野村先生がまとめた水生昆虫の図鑑の数々

一般参加者の会費は、「気軽に繰り返し来てもらえるように」、そのときどきの材料費やお弁当代程度。さまざまな場面でお世話になる集落の方々は会費はなし、伊藤先生をはじめ力になってくださる方々には、寄付や助成金からなるまるやま組の活動費で、心ばかりでも謝礼を渡す。これもみんなに無理なく、長くつづけていくために考えられた仕組みだ。

——体験活動として参加費を5,000円にするとか、料金を設定するという考えもあるでしょうけれど、グリーンツーリズムのようなかたちで切り売りしても、この土地に還元されるものがあるとは思えなくて。5,000円分のサービスを提供するのではなく、参加するひとと一緒に場をつくれたらと思うんです。

お膳立てされたお客様扱いの里山体験ではない、伝えたいことを参加者に身を持って学んでもらえる仕組みづくり。自分たち自身が集落に住み、その価値を日々感じているからこそ、まるやま組のかたちがある。
今回のアエノコトに参加した鳥取大学の大学生はじめ、東京農業大学の学生たちも毎夏、研修合宿の一環でまるやま組の活動に参加する。紀一郎さんの建築事務所でも学びながら、まるやま組のスタッフを務める坂本和繁さんも熊本県出身の26歳と若い。地元の小学生も萩野さんたちの働きかけによって授業の一環として、あぜ豆づくりに参加する。
次の世代はここで何を見出し、ここでの経験をどう活かしていくだろうか。答えが出るのはまだ先だろうけれど、まるやま組は受け取ったバトンを、たしかに次へつないでいる。

4年目のまるやま組のアエノコトではじめて限定販売された「あぜ豆醤油」。ハコ階段に「雑穀クッキー」と一緒にディスプレイされ、参加者はみな手に取っていった

4年目のまるやま組のアエノコトではじめて限定販売された「あぜ豆醤油」。ハコ階段に「雑穀クッキー」と一緒にディスプレイされ、参加者はみな手に取っていった

まるやま組
http://maruyamagumi.blog102.fc2.com

生物多様性アクション大賞
http://5actions.jp/award/

モニタリングサイト1000
http://www.biodic.go.jp/moni1000/

谷川醸造「まるやま組 × 大豆プロジェクト」
http://www.tanigawa-jozo.com/cn13/maruyama.html

世界農業遺産「能登の里山里海」情報ポータル>文化・祭礼
http://www.pref.ishikawa.jp/satoyama/noto-giahs/lib_bunka_nenchu.html

輪島エコ自然農園「いのちめぐるたんぼ」
http://ameblo.jp/wazimaeco/

参考資料
『畦豆からはじめる』2012年、『まるやま本草 ―土地に根ざしたくらしの暦』2014年(いずれも、まるやま組発行)
柳田國男「種の産屋」『海上の道』1961年初版(筑摩書房)
菊地暁『柳田国男と民俗学の近代 能登のアエノコトの二十世紀』2001年(吉川弘文館)
菊地暁「ユネスコ無形文化遺産になるということ ―奥能登のアエノコトの二十一世紀―」岩本通弥編『世界遺産時代の民俗学』所収、2013年(吉川弘文館)

文:宮下亜紀
編集者、ライター。出版社に勤め、女性誌や情報誌などを編集した後、フリーランスに。暮らしを豊かにするモノ、ヒト、コトを伝えるべく、雑誌やWeb、イベントなど、さまざまなフィールドで活動。
雑貨店おやつ店主のトノイケミキさんとの共著『はじめまして京都』(PIEBOOKS)。

写真:石川奈都子
写真家。建築、料理、プロダクト、人物などの撮影を様々な媒体で行う傍ら、作品発表も精力的に行う。撮影を担当した書籍に『而今禾の本』(マーブルブックス)『京都で見つける骨董小もの』(河出書房新社)『脇阪克二のデザイン』(PIEBOOKS)『Farmer’s KEIKO 農家の台所』(主婦と生活社)『日々是掃除』(講談社)など多数。

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