7)長く続けるために 感謝の心で「豊かさ」を伝え続ける
2014年、まるやま組のアエノコトは生物多様性アクション大賞を受賞した。
評価されたのは、「日本の文化を大切にする、食べることを通じて生物多様性、自然の恵みに感謝するといった、日本人の忘れかけている大切なことを伝えている」点だ。
まるやま組が自分たちの活動を広く伝えるのは、力になってくれているひとへの感謝を表すため。そして、活動を長くつづけるためでもある。
——ここでの豊かさは価値がある。そう外から評価してもらうことは活動を続けるうえで、意味のあることだと思うんです。金沢大学で植物生態学を研究する伊藤浩二先生は、「まるやまあるき」の日、みんなの活動が終わった後に残って、3時間かけて「まるやま」一帯の植物をモニタリングし、調査報告をまとめ環境省に提出してくださっています。これをまるやま組として4年間続けてこられた、相当な努力だと思います。多彩な生態系が調査結果から伝われば、自然農で頑張っている新井さんの田んぼが豊かであることも伝えることができる。水生昆虫を研究するまるやま組の虫博士、野村進也先生にも、知恵と力を貸してくれている集落のひとたちにも、価値を評価してもらうことで感謝を表したいし、活動も深みが増すように思うんです。
一般参加者の会費は、「気軽に繰り返し来てもらえるように」、そのときどきの材料費やお弁当代程度。さまざまな場面でお世話になる集落の方々は会費はなし、伊藤先生をはじめ力になってくださる方々には、寄付や助成金からなるまるやま組の活動費で、心ばかりでも謝礼を渡す。これもみんなに無理なく、長くつづけていくために考えられた仕組みだ。
——体験活動として参加費を5,000円にするとか、料金を設定するという考えもあるでしょうけれど、グリーンツーリズムのようなかたちで切り売りしても、この土地に還元されるものがあるとは思えなくて。5,000円分のサービスを提供するのではなく、参加するひとと一緒に場をつくれたらと思うんです。
お膳立てされたお客様扱いの里山体験ではない、伝えたいことを参加者に身を持って学んでもらえる仕組みづくり。自分たち自身が集落に住み、その価値を日々感じているからこそ、まるやま組のかたちがある。
今回のアエノコトに参加した鳥取大学の大学生はじめ、東京農業大学の学生たちも毎夏、研修合宿の一環でまるやま組の活動に参加する。紀一郎さんの建築事務所でも学びながら、まるやま組のスタッフを務める坂本和繁さんも熊本県出身の26歳と若い。地元の小学生も萩野さんたちの働きかけによって授業の一環として、あぜ豆づくりに参加する。
次の世代はここで何を見出し、ここでの経験をどう活かしていくだろうか。答えが出るのはまだ先だろうけれど、まるやま組は受け取ったバトンを、たしかに次へつないでいる。