3)「あるもの探し」から生まれるオリジナリティ
まるやま組の活動は、「あるもの探し」から始まる。まるやまにあるものは何かをまず考え、活動につなげていくのだ。たくさんの知恵を持つ集落のおじいちゃん、おばあちゃんはその最たる「あるもの」だが、奥能登に集まる参加者たちも大事なまるやまに「あるもの」だ。それぞれの、得意なこと、向いていることを見つけ出し、さまざまなものづくりに加わってもらう。まるやまの草木、雑穀、能登ヒバ、集落に伝わる知恵や風習など、材料もすべて身近にあるものだ。
『まるやま本草』にいきいきと植物を描くのは、まるやま組のメンバーで、絵描きのあんこちゃん。集落の耕作放棄地から生まれた「雑穀クッキー」の作り手は、「オープンキッチン」を担当する、ゆみさん。まるやま周辺の草木で染めた布は、珠洲市で古くから続くお寺の副住職でもある落合紅さんとつくりあげた。
——なにもないところからなにかを生み出すって、わくわくするでしょう。名の知れたプロじゃなくても、自分たちのスキルに合わせてつくればいい。始めはちょっと不格好でも、そこから学んで、少しずつ上達していける。お仕着せでなく自分たちで生み出していくことって、楽しく続けられると思うんです。
(上)珠洲市の乗光寺の副住職の落合紅さんは染色家でもある(下)「あんこちゃん」こと、イラストレーターで絵本作家の多智彩乃さんは、小松市出身で富山大学で絵を学んだ
(上)落合さんが染めた「草木布」は、使いかたを指定せずにさまざまな使い方ができる(下)あんこちゃんが描いた、まるやま曼荼羅。大学時代に描いていた「立山曼荼羅」に着想を得て、実際にはありえない構図のなかで奥能登を代表するような樹木や港や風物が散りばめられている。「まるやま」を中心にまるやま組に関係するさまざまなひとたちが集落の暮らしや風景のなかでゆるやかにつながっている
参加者が一緒に場をつくるひとりとして関わることで、結びつきも自然と強くなっていく。デザイナーであるゆきさんも、その手腕を遺憾なく発揮し、まるやま組がつくり出すものは『まるやま本草』然り、デザインからして魅力的だ。
「雑穀クッキー」はかわいい缶入り。できあがるまでを写真で追いかけたラッピングペーパーとのマッチングも素敵だ。草木染めの布は、巻いたり、バッグに結んだり、日常的におしゃれに使える。原料は特定外来生物のオオハンゴンソウにセイタカアワダチソウや繁殖力旺盛なクズなど、いわば厄介者扱いされている草木だ。「自然を携帯してもらえたら楽しいねって、ゆきさんたちと楽しみながらつくりました」と、落合紅さん。アイデアも楽しく、まるやま組の活動を知らなくても思わず手に取りたくなる。みんなの努力をデザインの力が後押しする。
——おしゃれなひとが集まるところにおしゃれなものがあるのは、あたりまえ。今ここにあるもの、ここにいるひとのチカラで、おもしろいものをつくりたい。「まるやま組に関わっている自分って素敵だな」って思えるってちょっといいでしょう。
奥能登にあるものを使い、自分たちで考え、生み出す。まるやま組がつくり出すものは、生粋のオリジナルだ。評判になればおのずと、みんなのモチベーションが高まる。ここでできることがたくさんあると、気づかせてくれる。
「雑穀クッキー」で得た利益は、雑穀をつくる集落のおばあちゃん、クッキーをつくるゆみさん、パッケージや製造道具をつくるゆきさんの3人で等分する。つくるひとと食べるひとが直接つながるフェアトレードが、ものをつくるモチベーションには大切な小商いとなっている(写真提供:2点とも、まるやま組)