アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#26
2015.02

とつとつとした点描−美術家・伊達伸明さんの仕事

前編 多様な作品を俯瞰する
1)見捨てられているものへの着目

まずはじめに伊達さんの学生時代を見ていこう。1980年代、京都市立芸術大学美術学部工芸科に在学していた当時、伊達さんにとって最も印象に残っているのは「京都デザインコンペ」という賞に取り組んでいたことだという。当時4回提出したなかの3つの作品はインテリアオブジェだった。そのひとつは、ろうそくの炎に向けて810本のグラスファイバーがパネルの側面に並んでいるというもの。風が通り抜けると、ろうそくの明かりを受けたグラスファイバーが揺らぎ、ろうそくが小さくなるにつれて光の高さが変わっていく。風と時間とが両方可視化されるというコンセプトで、88年のグランプリを受賞する。
伊達さんは当時の関心をこのように話してくれた。

———ちょうどバブル期で、まわりの建物が次々とピカピカになっていくのを横目に見ながら、古くなった家によくある手触り感や薄汚れた感じをもう一度咀嚼して取り入れたいと思っていました。僕は漆工を専攻してましたけれど、超然としすぎて触れない伝統漆芸よりも、どうにかこの使い古し感を漆でつくれんもんかな、なんて考えるのが好きでした。

現在でも伊達さんのテーマとしてある「見捨てられているもの」への着目は、学生時代からの関心だ。工芸科のなかには陶磁器、染織とあわせて3つの選択肢があるなかで、伊達さんは漆工を選ぶ。「ふにゃっとしたものは好きじゃない。ものを組み合せたときにきっちり角が出るようなものがよかった」と当時の心境を語る。

———学生時代、見捨てられているものを見直す、という関心はありましたが、単に古いものを使うだけではなく、グラスファイバーや集光アクリルといった新素材を意識的に使っていました。新奇な組み合わせを面白がっていましたね。

学生として最後となる大学院2年生時代、インテリアオブジェの制作を「仕事にすること」に疑問を感じた伊達さん。あらためて自身が好きなものは、純粋な好奇心でつくれるものは、と自身に問いかけ、その結果行き着いたのが「楽器を制作すること」だった。とりわけ簡単な構造にもかかわらず、弾けば音が出る弦楽器を選択。これを最後のデザインコンペ出品作とし、90年の準大賞を受賞する。

楽器として、音が鳴るようにはつくる。しかしその音を「成熟させること」を目的にはしない。むしろどういう音を「思わせるか」をテーマにしていたと語る。ここから「建築物ウクレレ化保存計画」まではあと一歩の距離に感じられるかもしれない。しかし、この制作を行うなかでの疑問から、伊達さんの作品は楽器そのものから外へと移行していく。