アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#24
2014.12

工芸と三谷龍二

前編 三谷さんのものづくり
7)手の実感と、ありのままに在る「たしかさ」と

三谷さんのものづくりの過程を、木工を始め、フェアを立ち上げ、そして立体作品や絵を手がけるようになり、さらには時代が三谷さんに追いついた2000年代半ばまでを取りあげてきた。
あらためて思うのは、三谷さんのものづくりはまったくぶれていないということだ。「ぶれない」ことは、素晴らしい作り手や届け手に共通する姿勢でもあるのだけれど、三谷さんはとりわけ、目でよく見つめ、手を動かすことからすべてを生み出してきた。うつわや道具はもちろん、絵も立体作品も、そして言葉も。頭で考える理屈ではなく、手の実感なのである。
ひとの暮らしの根本の根本まで立ち返り、自身と向き合ってきた時間があってこそ、三谷さんは「ふつうの生活」に深く根ざしたものづくりを始められたのだと思う。三谷さんの手によるものたちは、暑苦しい「表現」のようなものからは、遠く自由だ。奇をてらうことなく、素直にある。冒頭に書いた、三谷さんのつくるものがもつ「何か」は、一周回ってたどり着いた「手の実感」と、ありのままに在る「たしかさ」なのだと思う。
共感できる仲間たちと手をたずさえて、新しいことを始めてきたけれど、そのときの主語は決して「わたしたち」ではない。関わる個人ひとりひとりが、個として寄り添いながら、ものごとを進めていく。それもまた、三谷さんらしいスタンスだ。「ひとりひとりが自立している」ことは、その後の三谷さんの活動においても、いっそう大切になっていく。
後編では、いかにして、人と人、人とまちをつないでいくのか、三谷さんの2000年代から現在までの活動を見ていきたい。そこで行われているのは、流行のソーシャルな「まちおこし」などとは似て非なる、地に足のついた取り組みである。

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インタビューのあいだ、三谷さんはずっと白漆の作業をしていた。無駄のない手の動きは見飽きることがなかった

(参考文献)
『木の匙』『僕の生活散歩』(ともに新潮社)、『工芸三都物語 遠くの町と手としごと』(アノニマ・スタジオ)、『三谷龍二の10センチ』(PHPエディターズグループ)、以上三谷龍二著書
『素と形』(松本市美術館 / NPO法人松本クラフト推進協会、ラトルズ)、『ウォーキング・ウィズ・クラフト』(松本クラフト推進協会)

構成・文:村松美賀子
編集者、ライター。京都造形芸術大学教員。最新刊に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』。主な著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など。

写真:石川奈都子
写真家。建築、料理、プロダクト、人物などの撮影を様々な媒体で行う傍ら、作品発表も精力的に行う。撮影を担当した書籍に『而今禾の本』(マーブルブックス)『京都で見つける骨董小もの』(河出書房新社)『脇阪克二のデザイン』(PIEBOOKS)『Farmer’s KEIKO 農家の台所』(主婦と生活社)『日々是掃除』(講談社)など多数。