アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#18
2014.06

場の音、音の場

前編 梅田哲也×細馬宏通 対談 展覧会「O才」をめぐって
1)「O才」は展覧会?
曲を演奏している状態

曲を演奏している状態

郵便局脇の空き地に行くと、金網に取りけられたテープレコーダーから音声が流れてくる。そのことばに従って案内所である酒店に行き、地図を受け取り、まち歩きを始める。地図の裏には高速道路ができる前、路面電車や飛田停車の南海線が通っていたころの古地図がプリントされており、透かすと古地図があらわれ、展覧会のマップに重なって見える。
道ばたでゲームのようなことをしている謎の男女。床が燃え続ける古アパート、屋根裏で誰かがSP盤のレコードを回す廃屋。その傍らで、誰かがひっそり空きビンを吹き鳴らす。ゴルフの練習場では、土をならしているひとがいるかと思うと、子どもがとてつもなく大きな黒い球を背負ってよろけながら歩いている。そのすぐ脇にある建物の2階から誰かがひょっこり顔を出す。知らないうちに、ひとが出てきたり引っ込んだりして、いつのまにか、景色が少し変わっている。

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展覧会地図オモテ(左)とウラ(右)。陽に透かすとかつてのまちが今に重なる

まちの酒店で地図を受け取り、展覧会場めぐりを始める

細馬 ゼロサイ、オーサイ? レイサイっていうの? 僕の知人が、あれはオーじゃないのかと言っていたんだけど。

梅田 僕たちはゼロサイと言ってます。表記としてオーを使用してます。

細馬 西成の地図を見ると “O(オー)”と“才”があるんだけど、そこから来ているのかな? ちょうど阪神高速の丸いところがOのかたちになっているんだよね。

梅田 「ゼロサイ」というタイトルが先にあったんですよ。その後、スタッフと地図をつくっていて、空き地を塗りつぶしたときに、地図上にOと才が浮かび上がってきた。偶然で、まあ驚きましたけど。

細馬 タイトルを決めたあとに地図にその文字が見いだされるってのが面白いね。「O才」って「展覧会」とされてるんだけど、ちょっと変わってるね。展示なのかというと、そうとも限らない。美術館でやってるわけでもないし、かといって、ただのまち歩きとも違う。

梅田 僕はできるだけ、“展覧会”と言いたいんですけれどね。展覧会と言い切ってしまうことで、むしろ逆説的に想像力をかきたてるような効果を狙っているところが多少あって。まず、ふだんから作品のつくり方として、パフォーマンスだから、あるいは展覧会だからこういうものをつくるとは考えないんですよ。それぞれの空間や時間、その場の状況、関わる人間なんかが違うわけだから、つくるものもそれに応じたものになるというだけで。美術館だから展覧会だとか、展覧会だから美術館でやるんだ、とかそういうことではない。それに、パフォーマンスと言うか展覧会と言うかで、観客が無意識的に取ってしまう態度がぜんぜん違ってくるでしょう。「O才」はパフォーマンスの要素が強い内容ではあるのですが、観客にそれを期待して来られると、まちにもともと存在する要素と、僕がつくり込んだ要素との間にグレーゾーンを設定しづらくなると思ったんです。ただ、今回は僕らも大変ではあったんですよ。“展覧会”としたら、本当に伝わらなくて……。

細馬 誰に?

梅田 まずは、まわりのひとたちに。スタッフや演者、ゲストとして呼んだひとたちなんかがそうだったし。いざ、かたちがある程度固まって、外に打ち出していくとなったら、鑑賞者にも……。チラシを渡してもうまく伝わらなくて、結局「で、何なのこれは」としかならなかったり。「O才」はBreaker Project(*1)という小さい組織が企画して、そこのひとたちが広報みたいなこともやってくれるんですが、それでもまぁ、引っかからない。誰にも引っかからない。他の企画と比べても、全然手ごたえがない。

細馬 結果から見るとBreaker Projectとはすごく緊密に連携していたと思うんだけど、最初はそんな感じだったんだ。

梅田 打ち出し方として、短い期間のなかで二転三転したんですよ。僕は必要な情報だけ決める、つまり何時から何時までならいつでも出発できるルールとか、出発点として空き地が指定されているということに全部含ませたつもりだったんです。受付が存在せず、開催場所もはっきりしない、いわゆる“展覧会”とは違うということを。それで「あれ、これ何かようすがおかしいぞ」と思って来てもらえたらいいな、と思っていた。そうしたら、これ、どうすれば(どう見たら)いいんですかという問い合わせばかり来てしまったんです。

*1Breaker Project 2003年より大阪市の文化事業としてスタート。芸術と社会をつなぐことを目的とし、表現者と鑑賞者双方にとって、有効な創造活動の現場をまちのなかに開拓していく地域密着型アートプロジェクトである。単にアートをまちなかに実現させるためでなく、また地域の活性化のみを目的とするものでもない、双方にとって有効なプロジェクトを目指す。