アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

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#14
2014.02

ひらかれた、豊かな<場>をつくるために

前編 京都・Social Kitchen
5) S・Kで育つ1 台所大学picasom

これまで書いてきたように、S・Kは利用者が自由に使える場所である。それと同時に、運営するhanareメンバーがやりたいこと、実験したいことを行う場所でもある。その両方が入り交じるかたちで、さまざまなものごとが行われてきている。
“アートと公共性を考える”自主勉強会「台所大学picasomピカソム」は、S・Kのオープン当初から続いている企画だ。学芸員の中村史子さん、インディペンデントキュレーターの遠藤水城さんが始めたもので、テキストをていねいに読む読書会が中心となっている(*)。
河本順子さんは、始まりからずっとpicasomに参加している。S・Kで自主企画も開催し、他のイベントにも顔を出すというS・Kの積極的な利用者でもある。

———S・Kに来るようになって一番影響受けたのはpicasomですね。この勉強会は、hanareのメンバーやS・Kの利用者がここを活用して実践的にやっていくうえで理論面を補強する、そういった内容のものを読んでいこうという趣旨で始まったと思います。1回目に参加したら、いきなり英語の本を読みますと言われたんですね。
わたしは芸術とはあまり縁のない環境で育ってきたので、アートとは名画の鑑賞みたいなものだと思っていました。でも、picasomで話されているアートは、問題の起こっている地域にアーティストが出向き、そこで起こった難問なんかをひとつひとつの関係性のなかで解決していく。時には現実の政治問題とも関わるような事例がどんどん紹介されていくんですよ。びっくりしましたが、違和感はなかったんですね。最初の年は、その英語の本を1年8ヵ月かけてじっくり読んでいきました。

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これまでメンバーで読んだできた本。何を読むかも自分たちで決める

河本さんにとって、 picasomでの学びは、じっくりと社会と自身の接点を探ることだった。そうして2011年末、河本さんに学んだことを実践に生かす機会がやってきた。「京都会館」の改築問題である。

———京都会館については、新聞では「オペラハウスになる」ということだけが報道されていました。でも、市民ホールの行く末を話し合う場所がどこにもありませんでした。新しくなる京都会館への要望書づくりがきっかけで、初めてS・Kで意見交換会が開かれたんです。その話し合いのなかで、建て替えること自体への疑問、建物への愛着なんかを語る方もいて、それぞれの意見は違っても、みんな真剣でしたね。それで、すんなりと関わることを決めていました。たぶんpicasomで土台ができていたんですね。

S・Kに集まる人々が始めた運動に対して、S・Kも積極的に応援した。ホームページで意見交換会の広報をしたり、寄付金を集めるための協力もした。運動に参加する河本さんに対して、hanareのメンバーは「そういう人に出てきてほしくて勉強会をやっているんだから、すごくうれしい」と言ったという。
河本さんは、facebookでの学歴を「台所大学出身」としている。それくらい、「picasomで育った」という思いは大きい。

S・Kに関わることで育ったひとって、いろんなタイプがもっと出てくると思いますが、わたしもひとつのモデルになれたらいいなとは思っています。台所大学出身、S・Kで生まれ育った一市民のモデルですね。

*picasom
Publicness In Contemporary Art and Social Movementの略称。