7)S・Kで育つ3 「OYE!(オイッ)」プロジェクト
2012年、S・Kは実験的なプロジェクト「OYE!(オイッ)」を立ち上げた。
One Year of Explorationの略称で、1年間かけて、アーティストや研究者、社会活動家、農家などがS・Kを拠点に活動していくものである。単なる作品発表などにとどまらず、これからの社会において、ひとがどのように「交換」し、働き、学び、暮らし、表現するのかを探っていくための試みだ。
その第1回目に選ばれたのがhyslom/ヒスロム(以降hyslom)である。加藤至、星野文紀、吉田祐の3人からなるユニットで、映像や写真、立体物、パフォーマンスなどを制作し、発表している。
2009年から“山から都市に移り変わる場所”を定期的に探検し、記録しながら、そこにある土管やパイプ、穴、切り倒された木の山など、自然と人工のさまざまな事物で、身体を使って遊び、実感しながら、想像をめぐらせていく。その場所のこれまでとこれから、さらにそこからつながるわたしたちの生活、あるいはもっと日本の風土と景観の変化に至るまで。
彼らのやっていることは、わたしたちの生きる社会やふだんの生活と地続きであるうえに、地理学や民俗学、あるいは都市計画や政治などにも関わりを持つ。アートという枠には収まりきらない、ユニークな活動だ。
Hysteresis とは物理の用語で、ある物に力を加えると、最初の状態のときと同じに戻しても、状態が完全には戻らないという意味を持つ。履歴現象。
「OYE!(オイッ)」以前から、hanareのメンバーはhyslom3人のやることを面白がって応援してきた。hyslomが撮りためてきた映像を最初に見てもらったのも彼らだった。
———上映会というよりもっとラフな感じで、パソコン上のモニターでざっと見せたら、須川さんたちが「おもろいやん」と。「S・Kのサイトに上げて、いろんなひとたちに見てもらったら」と言ってくれたんですね。(加藤さん)
その約1年後、「OYE!(オイッ)」に選ばれてからは、自分たちのやっている“遊び”とは何かを一歩踏み込んで考えながら、活動と制作を続けてきたという。
第1回目は上映会とリサーチ発表。昆虫採集者、猟師、作業員など、現場で出会った“ひと”に焦点を当て、3人がそれぞれを演じ、対応する映像を制作した。第2回目は“モノ”に焦点を当てたサウンドパフォーマンス。たとえば「橋」があるとして、結果としてできあがった橋ではなく、その内部構造にある穴や鉄筋ができる過程を見せようという趣旨だ。最終的には見えなくなってしまうものたちを、自分たちで作り直して、再現した。そして第3回目は立体物の展示。現場で出会ったモノを自分たちで読み替えて、「Big-one-パイプ」という巨大楽器彫刻をつくり、展示した(*)。
「OYE!(オイッ)」をやることで、hyslomの3人には何か変化があったのだろうか。
———変わりましたね。現場で感じた疑問や問題意識を、どのようなかたちで、展覧会を見に来てくれるひとに向けられるかということを考えるようになりましたね。物事を広く、そこから派生するさまざまなことを考えられるようになったというか。(加藤さん)
———S・Kでやるということで、生活の延長線上でできるか、やっているかをずっと考えていますね。生活と渾然一体になるというのは、あの場所に行きながら、こっちでつくる、その反復だと思う。あっちに行って、こっちで考えてつくって、また行って、というような。生活と一体のようなかたちになったのかなという気はしています。(星野さん)
自分たちが何のために、作品をつくっているのか。S・Kでの活動を通して、今のhyslomはそのことを言葉で説明できるようになった。それも、アート関係者だけでなく、広く一般のひとにも伝わるような言葉で。
———僕たちは美術系の大学を出て、ものをつくることじたいは前からやっていた。だけど、「OYE!(オイッ)」をやることで、自分がものをつくる必然性や、なぜこの景色を撮りたいのか、ひとに伝えたいと思うのか、つくることの意味を一から考える良いきっかけになりました。(加藤さん)
hyslomは自分たちのやっていることを根本からとらえなおし、ひとに伝える意味を考える。見るほうは、アートがどうというよりも、何かわからないものに出会うことで、新たな知覚のきっかけとなる。作品を通して、作家も見る側も、ともにひらかれていったのが「OYE!(オイッ)」なのだと思う。
(*)展覧会は第5回まで行われた。詳しくはS・Kのサイト参照。
http://hanareproject.net/project/oye-01/