7)終わりに
ヌイ・プロジェクトはどんなひとたちがつくっているのだろう……。
そんな好奇心からしょうぶ学園を訪れたが、そこで印象的だったのは特別な才能をもった人々というより、知的障がい者と施設職員がそれぞれのやり方でクリエイティブであろうとする環境のほうである。職員は愛情をもって利用者の可能性を育み、利用者は与えられた状況のなかで思いきりものづくりに没頭する。場所にあふれているそんなポジティブなエネルギーになにより心を打たれたのであった。
福森施設長の話を聞いたり学園の光景を見ていると、自分自身のことを思わず振り返ってしまう。大学で教えていると、自分の価値観を学生たちに押しつけていることがある。実際、教員の役割はそういうことでもあるのだが、それは彼らの創造性を引き出すことになっているのだろうか。
わたしたちは何のために学び、ものをつくり、働くのか。しょうぶ学園の人々と接して、この基本的な問いにもう一度立ち戻ることの大切さを教えてもらった気がする。学園を訪れたひとはだれしもそうした思いを抱くことだろう。それは容易には消えない、忘れがたい記憶となって今も胸に残っている。
参考文献
『しょうぶ学園40周年記念誌 創ってきたこと、創っていくこと』社会福祉法人 太陽会 福森悦子 2013年
『糸の先へ』展図録 福岡県立美術館 2012年
『Stitch by Stitch』展図録 東京都庭園美術館 2009年
大高亨「<工房>しょうぶの手縫い作品」『染織α』2000年6月号、No.231
土井初音「刺繍からみえること —自閉症の刺繍作品と制作工程からの考察」京都造形芸術大学卒業論文
藤田治彦編『芸術と福祉』大阪大学出版会 2009年
文:成実弘至
京都造形芸術大学准教授。
文化社会学。
著書に『20世紀ファッションの文化史』(河出書房新社)、編著書に『コスプレする社会』(せりか書房)、『空間監視社会』(新曜社)など、共著に『Japan Fashion Now』(Yale University Press)ほか。
展覧会『感じる服 考える服』(2011年、東京オペラシティギャラリー)にキュレーターとして参加。
写真:石川奈都子
建築、料理、プロダクト、人物などの撮影を様々な媒体で行う傍ら、作品発表も精力的に行う。撮影を担当した書籍に『而今禾の本』(マーブルブックス)『京都で見つける骨董小もの』(河出書房新社)『脇阪克二のデザイン』(PIEBOOKS)『Farmer’sKEIKO 農家の台所』(主婦と生活社)『日々是掃除』(講談社)など多数。