7)ヌイ・プロジェクトというアート
しょうぶ学園を世に知らしめたのは、布の工房でつくられているヌイ・プロジェクトだろう。冒頭で述べた東京都庭園美術館をはじめ、全国のギャラリーで展示され、アートとして高く評価されている。
地域交流スペースOmni Houseの1階、ヌイ・プロジェクト常設ギャラリーにはこれまで学園で制作された作品が展示してある。商品ではなく作品として、しょうぶ学園が大事に持ち続けているものたちだ。
そこにあるのは布と針と糸でどんなことができるか、ありとあらゆる表現の可能性を試した実験室のような光景だ。布に思いきり刺繍して糸のこぶが隆起している作品、刺繍の密度があまりにも濃くて、地の布が見えなくなっている造形物、シャツに刺し子のように糸を縫い込んでいき稠密な模様になっているもの、長い布に大きく模様を刺繍しているもの……。かびや粘菌のような生命体、大昔の職人の超絶技巧、そんなものを想起させるアヴァンギャルドな作品が並んでいる。そこに込められている手しごとの多さ、細かさは尋常ではない。
ビーズで植物や紋章を思わせる装飾を描いた大島智美さんの作品は、実は九州新幹線をモチーフにしたものだという。大島さんは難聴で自閉症のため他人とのコミュニケーションは難しいが、自分がつくりたいものを計算して制作することができる。
さらにびっくりしたのは、工房の一角にある六畳くらいの部屋を全部使って制作していた吉本篤史さんだ。細かく切った多数の布きれをフロアと机の上に並べ、それらの断片の間の関係をつけるかように糸が張り巡らしてある。
———自分のパンツや靴下を持ってきて、ここで切り刻んで、いらないものは捨てて、そうでないものは並べていくんです。繊維にこだわりがある方で、自分の部屋でもやっていて、シーツとか枕カバーとかタオルから糸だけぴーっと引っ張って、よりあわせて、机にきれいに並べていたりします(福森順子さん)。
布を切り、糸をより合わせ、床や机に配置していく。何かを仕上げるというより、行為そのものが彼を突き動かしているようだ。これはアートなのか、遊びなのか。彼の部屋での作業も、延々と糸をより分け机の上に並べていくもので、なにか途方もないオブセッションを目撃した思いがしたのであった。