6)全力のコラボレーション
しょうぶ学園では利用者はひたすら自分の創作に打ち込んでいる。それをアート作品として発表する場合もあれば、職員が手を入れて商品化する場合もある。後者の場合は、利用者と職員とが協働してつくり上げていく。
数ある商品のなかでも、わたしがとくに気に入ったのは布の工房で見せてもらった刺繍シャツだ。
布の工房は福森順子さんを含めて職員4人が担当している。工房の建物内に机が並んでいて、その日は十数名くらいの利用者が黙々と針を動かしていた。各自の机の上にはそれぞれ多色の糸や布があり、それを使いながら模様や色彩や作風はまったくひとそれぞれだ。
刺繍枠をつかってさっさっと刺繍をしているひと、布に描かれた円のなかにこんもりと刺繍するひと、糸で何かを縫っているひと、刺し子をしているひと、一人として同じ作業をしているひとはいないように見える。皆ぴんと張りつめた空気のなかで作業に集中している。わたしたちがいる間、私語はほとんど聞かれない。
工房のハンガーに多くの刺繍シャツがかかっていた。市販のプレーンなシャツに利用者が刺繍し、職員がミシンをかけて加工したものだ。こちらは刺繍の手しごとがうまくアクセントになっていて、ひびのこづえやイッセイミヤケのシャツのよう。福森順子さんが言う。
———材料費を得ないといけないし、刺繍した布を商品化するためにはどうすればいいかと思案した結果、このようなシャツを作っています。まず、利用者がシャツに刺繍をした上から職員がミシンステッチをかけ、ヌイプロジェクトのシャツとして完成させます」。
まさしくコラボレーションである。彼らの刺繍の上からどんどん加工していくので、文字通りの共同作品となる。
———本当に一緒に作業、仕事してるという感じですね。こういう施設にいて、彼らと同等だと思っても、教える側と教えられる側に自然となってしまうんですけど、この作業をしていると、彼らの刺繍がないと私たちはミシンをかけられないし、またミシンをかけることによって責任感が生じて、それ以上のものにしようという意識が生まれる。そうすると同じものに向かって一緒に作業してるという感じになるんですね。前までは、ここはこうだよ、と指示する感じだったんですけど、今は横並びで動いてます。
福森夫妻の娘である壽浦(じゅうら)直子さんもこの工房でシャツにミシンをかけている。直子さんは大学で染織の勉強をしたあと、ロンドンでファッションを自作してフリーマーケットなどで販売していた。ミシンをかけるのは、今や直子さんが主体である。
自分のつくったものに他人が手を入れて、利用者は怒ったりしないのだろうか。順子さんは言う。
———彼らは執着しないですね。わかるひとには「こうなったよ」と言いますけどね。そしたらみんな「かわいい」と言ってくれるんです。なんでもかわいいって言ってくれるから嬉しいですよ。
こうしたコラボレーションをよしとするところがしょうぶ学園のユニークなところだと思う。知的障がい者の作るものをアウトサイダーアートとして奉るのでも、デザイナーTシャツのように量産するのでもない、職員と利用者が対等に協働することで生まれる、ここにしかない世界を追求している。
しょうぶ学園が大切にしているのは、完成された作品でも売れる商品でもなく、利用者がものづくりをしたり、職員と協働するプロセスそのものだ。その充実した時間こそが目指すべきものなのである。