5)職員と利用者の関係
しょうぶ学園では、職員と利用者は対等な関係にあるように見える。実際にはそういかないこともあるだろうが、職員が教え、知的障がい者は教えられる、といった関係性がなるべく生じないよう工夫されている。
学園に入職した新人職員はケアか作業かを選ぶ。作業が不得意なひとはケアを中心に、それ以外のひとは作業場に配属、木工なら木工を覚えるのだそうだ。利用者と同じように、職員も一からものづくりに取り組むことになる。
オット&オラブも新人職員の試金石だ。まず新人や福祉等の専門学校から来た研修生はオラブに入って、思いっきり叫ぶ練習から始めるのだという。全力で叫ぶというのは簡単ではなく、なかなかできないひともいるが、新人教育の一つとなっている。
福森施設長には、職員もクリエイティブであるべきだという信念がある。地域交流スペース「Omni House」の外壁には、利用者の翁長ノブ子さんの絵が大きく描かれているのだが、これを実際に塗ったのは職員たちだ。彼女の絵を建物の図面に乗せて、それを見ながら櫓を組んで作業したという。ほかにも、パスタハウスの土壁を塗ったり、庭に池や小川をつくったり、スタッフの手はいろいろな場所に及んでいる。自分たちの場所は自分たちでつくるということだが、職員ももの作りを楽しもうという基本姿勢の現れだろう。
職員の重要な仕事のひとつに、利用者がつくったものを商品としてかたちにすることがある。ある意味、利用者はつくりたいもの、つくることのできるものを思いっきり創作するだけだ。彼らにはそれを売るという発想はない。それをデザインしてプロダクトにしなければ、商品としては世に出ることはないのだ。
見学に行ったとき、ちょうど学園のギャラリーでは「Tシャツ展とうちわ展」が開催中だった。利用者の描いたイラストのTシャツとうちわが展示販売されている。脱力系の絵、不思議な絵、味のある絵……さまざまな絵をプロダクトアウトするのはデザイン室の仕事である。
デザイン室の榎本紗香さんは絵画工房も担当している。
榎本さんはアメリカの大学で美術を学び、アーティスト活動もおこなってきた。友人に誘われてしょうぶ学園を見学して衝撃を受け、翌日には履歴書を持ってやってきたという。
———彼らに敵わないと思いました。わたし、ここに入って、絵を描くのやめたんです。彼らがアーティストなら、わたしはそうじゃないなって思って。デザイナーならなれるかもしれないけど、表現っていう意味では私はアーティストじゃないって。でもそこですごく葛藤していたので、そう思うことで楽になった部分もありました。
それから5年、彼女はデザイン室でデザイナーとして彼らの作品に手を入れたり、利用者がものづくりしやすい工房での環境作りにかかわってきた。
———彼らと接するのは面白いですね。ここに来たときも、新しい国に来たーって感じでした。彼らには彼らのルールやこだわりがあって、社会に染められずにやってるところがかっこいいなって思うんです。誰か他のひとのマネをすることもあまり見たことがないですし。学園から外に出たら難しいことだと思いますが、ここではそれができるし、それあっての作品ですから。
榎本さんは気持ちが暗いときなど、しょうぶ学園を利用するひとたちと話して元気をもらうことがよくある。彼女の話しぶりには、彼らへの深いリスペクトが感じられた。