アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#10
2013.10

しょうぶ学園 ― ものづくり、アート、創造性 ―

前編 好きなものをつくり、幸せでいること 鹿児島の障がい者施設から
2)開放的なものづくりの場所

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(上から)建物はどれも開放的でセンスの良さを感じる /

(上から)学園内は緑があふれる / 建物はどれも開放的でセンスの良さを感じる / 利用者が毎日手書きする看板。書籍化もされた(『カリヨン黒板日誌』パルコ出版)

鹿児島市内から東北へ車で30分ほど走ったところが菖蒲谷である。かつてはうっそうとした里山だったらしいが、いまは適度に開発された郊外の丘陵地帯といった風景だ。その一画の緑あふれる敷地にしょうぶ学園はある。
広々した入口から小径をたどっていくと、手前にそば屋やパン工房、さらに進むと広い中庭を取り囲むように事務棟、地域交流スペース、カフェなどが建っている。建物はそれぞれ土壁だったり、木のファサードだったり、一つとして同じものはなく、個性豊かな外見に仕上げられている。樹々が日陰をつくり、よく手入れされた庭があり、小川も流れていて、心地よい自然環境がひろがっている。
訪れて印象的なのは、園内の開放的な雰囲気で、手作りの看板があったり、外から来るひとを温かく迎える工夫がなされていること。実際、一般の方もたくさん、ギャラリーやショップの作品を見に来たり、飲食店で食事をしたり、パンを買いにくる。全粒粉を使ったパンは店先に並べると、あっという間に売り切れてしまうほどの人気だ。また、パン工房の入り口には、施設利用者の一人が手書きする黒板ボードがあって、身の回りの出来事などをエッセイ風の文章で書いてあり、思わず微笑んでしまう。
わたしたちも今回の取材中、カフェでパスタを食べ、そば屋でそばをいただいたが、いずれも材料を吟味し、ていねいに手づくりされていて、本格派のおいしさで大いに満足だった。これら飲食店でも、障がい者と職員が一緒に働いているのが見える。
しょうぶ学園は知的障がい者のケアや自立支援に取り組む一方で、ものづくりを通してこうした人々のもつ力を引き出し、社会に発信することに大きな成果をあげてきた。現在、布の工房、木の工房、土の工房、和紙の工房、絵画・造形のアトリエ、食の工房、花と野菜の農園など、多彩な活動がおこなわれている。
最初に見学した木工工房では、太い木の塊にのみを入れるひと、丸太をけずって自画像を彫るひと、木製のフォークやナイフに紙やすりをかけるひと、動物のオブジェをつくるひと……、さまざまな木の作品がつくられていた。ごつい木の塊をのみで内側からけずっていくのは、さぞや骨のおれることだろうが、一心不乱に熱中している。
つぎに向かった陶芸工房でも、みんな黙々と土をこねたり、丸めたりしている。日常で使えそうな器もあれば、土偶のようなオブジェもある。縄文風の味わいのある像をつくっている女性もいた。
ここは森のなかの学校というか、開放的な文化施設のような趣きで、ものづくりに真剣に取り組んでいる、静かなエネルギーにあふれている。いわゆる福祉施設のイメージからはほど遠い空間である。

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(上から) 削り出された豆皿はいい味を出している / 木、絵画など工房はそれぞれ個性があって、雰囲気も違う / 利用者は一心不乱に制作に取り組む / パン工房「カリヨン」のパンは全粒粉を用いている。店頭に並べると、あっという間に売り切れる / 職員と利用者がいっしょに働く / そば屋「凡太」は信州風の本格派、こちらも人気が高い / 縄文を思わせる土の作品 / 店のあちこちに利用者の作品が置かれる。テーブルや椅子などは園内でつくったものも使う