1)はじめに
鹿児島にある知的障がい者施設で、すごいアートがつくられているーー。
わたしがその話を聞いたのは、5、6年前のこと。京都造形芸術大学の同僚である、染織テキスタイルコースの先生たちが話題にしていたのを耳にしたときであった。そのころ染織コースの大学院ゼミに参加していたのだが、ある大学院生が布にひたすら刺繍を繰りひろげていく作品を制作しているのを見て、「こんな表現があるのか」と内心驚いていた。そう話すと、ひとりの先生が「あれはしょうぶ学園の影響でしょうね。でも、あの域に達しているのかな……」とコメントしたのが記憶に残っている。
実際にしょうぶ学園のアートを見る機会がやってきたのは、2008年東京都庭園美術館で開催された「スティッチ・バイ・スティッチ 針と糸で描くわたし」展だ。これは布に針と糸で痕跡を残すことで作品にする、主に若手のアーティストたちに注目した展覧会で、従来の手芸や工芸とは少し異なった、表現方法としての刺繍の可能性を追求した興味深いものであった。そこにしょうぶ学園の大島智美と吉本篤史の作品が出品されていたのである。
この展覧会自体は興味深いものであったが、しょうぶ学園だけに焦点があてられていたわけではなかった。しかし、そうはいっても大島や吉本の作品に他のアーティストたちとは違うテイストがあったことはたしかだ。「アウトサイダーアート」とは何なのか、そこではどんな教育がおこなわれているのか、ますます興味がかき立てられたのだった。
そんなわけで、今回の取材は、しょうぶ学園のものづくりを間近に見ることのできるまたとない機会となった。はたしてそこはどんな世界なのだろうか……。