8)信頼関係とすこやかさ
どんなことがあっても、市は必ず開かれる。ただし正月元旦、2日とよさこい祭り以外は。
今回、2013年4月の取材予定日は、台風並みの暴風雨に見舞われるという予報が出ていた。心配になり、街路市係の藤村さんに電話をしたら「大丈夫です、あります」と力強い答えが返ってきた。「台風が来ても市はやります。われわれが今日はさすがに無理、と思っても、出店者の方たちが集まってきてしまうんですよ」。これまでの記録でも、台風などの悪天候で中止になったことは、一度くらいだという。
それというのも、出店者の誠意も大きい。荒れ狂う暴風雨のなかでも“先週お約束したお客さんが来られるかもしれないから、車で待ちます”と帰らなかったという話もある。お客との関係を何より大切にしているのである。
だから、お客にはできるだけのことをする。いものつるを売っていて、グラム数が表示より少なかった、という連絡を受けた農家は、市が終わったその日のうちに、山を越えて愛媛のほうまで不足分を届けに行った。いずれも極端な例かもしれないけれど、面と向き合ってやりとりする関係だからこそ、そこまでの責任感も生まれるし、その誠意を受け取った客も出店者から離れないのだと思う。
もちろん、市にあるのは美談ばかりではない。出店者の高齢化、後継者の不足、量販店の圧迫……。さまざまな問題を抱えつつも、つくるひとと買うひとが直接やりとりできる場は、やはりとてもすこやかであると思うのだ。
次号でくわしく紹介するが、長年「市」の研究をしてこられた福田善乙さんがこんな話をしてくれた。「出店者の中学生の子が、おんちゃん、僕は不良になれん、と言うのですよ。なんで、と聞いたら、よもぎもちをつくるのに、僕と妹がよもぎを取りに行く。おじいちゃんとお父さんがおもちをついて、おばあちゃんとお母さんが丸めて、おじいちゃんとお父さんが市に運んで、おばあちゃんとお母さん、時々自分たちで売る。僕がいないと一家が成り立たない。不良してる暇がない、と」。毎週徹夜で準備するなど、体力的には大変だが、市に出る生活もある意味またすこやかなのではないだろうか。
次号では、日曜市から始まった新しい市の発展を見ながら、これからの市とひととまちのありかたについて考えたい。
土佐の日曜市
高知市追手筋
(10~3月)5:30~17:00 (4~9月)5:00~18:00
よさこい祭り、正月元旦と2日以外は開催
問い合わせ先:高知市商工観光部産業政策課街路市係
tel:088-823-9456
http://www.city.kochi.kochi.jp/soshiki/40/gairoititop.html
文・編集:村松美賀子
編集者、ライター。京都造形芸術大学教員。最新刊に『標本の本-京都大学総合博物館
の収蔵庫から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』。主な著書に『
京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』
(平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・ス
タジオ)など。限定本http://book-ladder.tumblr.com/
写真:森川涼一
1982年生まれ。写真家。2009年よりフリーランスとして活動する。
人物撮影を中心に京都を拠点とし幅広い制作活動を行う。