2)日曜市を歩く 土佐の食と、風土と
個人的な話で恐縮だが、市に興味を持つようになってもう20年になる。市はそのまちの風土や文化を知る手がかりだと思い、ものもひとも、ふだんのありようが垣間見えるところに魅力を感じたのだった。そんなわけで、国内外を旅するごとにその土地の市を訪ねてきたし、今住んでいる京都と、かつて住んでいたロンドンの市については本も書いた。その目線で高知の市も見ていこうと思う。
さて、日曜市である。いろいろ見てきた市の中でも、ここはとびきり楽しく豊かだ。市というのは商品、売り手、買い手、そして場がそれぞれ響き合い、個性が生み出されるのだと思うけれど、日曜市はどの要素も充実していて、バランスも取れている。
エキゾチックなフェニックスの木が立ち並ぶ一本道。正確には大通りの片側車線を封鎖して作る空間だ。そこを東の入り口から歩き進めると、大高坂山にそびえ立つ高知城の天守閣が見えてくる。日曜市は、いかにも南国・土佐らしい場所に立つ。
今回の取材の何年か前、最初に日曜市を訪れたときの記憶は鮮やかである。1月半ばの冬の日、まず目に飛び込んできたのは土佐文旦の目のさめるような黄色であった。大きな明るい丸は鮮烈で、歩き出してしばらくは見渡す限り文旦、文旦、また文旦という印象だった。
少し目が慣れてくると、珍しい食べ物がたくさん見えてきた。こんにゃくやしいたけ、みょうがなどをにぎり寿司の具に見立てたお寿司。鯖寿司も京都のものとはまったく違って、一匹まるごとお頭付きという豪快さだ。
もっと行くと、何とも言えない匂いが漂ってくる。強烈な発酵臭を放つ、水分が抜けきって平べったくなった大根の古漬け。長い行列ができている天ぷらの店先……。見たことのない、匂いをかいだことのないもののオンパレードで、土佐の食文化の豊かさにすっかり参ってしまっていた。
全長1.3キロ。試食をしたり、屋台でつまみ食いしながらそぞろ歩くにはちょうどいい距離だ。市の半ばを過ぎたころから、食べ物に混じって、手編みのセーター、素朴な焼きものなど食べ物以外が増えてくる。面白いところではマッコウクジラ、ミンククジラなどクジラのナイフが数種類も。さすがは黒潮文化圏! 高知城にかなり近づいたころ、市の果てが見えてきた。そのあたりになると、花や植木、刃物や金物、木製品、そしてジャンクな骨董などがほとんどを占める。中央分離帯より向こう側の広場では、人々が将棋指しに興じている。ああ今日は日曜だったと思い出させるような、のんびりした光景だ。
商品のヴァラエティは豊富で層も厚いけれど、規模が大きすぎないから、ゆったりとした気分で見てまわれる。売り手のおばちゃんたちも熱心に呼び込んだりするわけでもなく、にこにこしながら放っておいてくれる。土佐弁を借りるなら“まっこと楽しい”市なのである。