アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#59
2018.04

場をつくる × クラウドファンディング

前編 京都・出町座
3)オルタナティブな試みを

映画上映スペースではなく、「映画体験」をつくるために田中さんは書店やカフェを併設した場づくりを構想する。そのパートナーとして、ホホホ座浄土寺店元スタッフのうめのたかしさんに声をかけ、それをきっかけに、出版社に勤めつつ、海外文学専門の書店Montag Booksellersを運営している宮迫憲彦さん、YUY BOOKSの小野友資さん、デザイナーの尾花大輔さんとの共同プロジェクトとして本屋の運営をスタートした。宮迫さんは、映画やアートを中心とした出版社・フィルムアート社に勤めながら、会社の理解もあり、個人活動として出町座で本屋を始めることになる。

——僕は大手書店に勤めていた経験もあり、もう一度、本屋をやってみたいという気持ちは持っていました。自社の出版物を読んでもらいたい気持ちはもちろんありますが、他にもいい本はたくさんある。いろんな本を扱えるのが本屋の魅力です。僕は本屋に限らず、「いろいろ選択肢がある」という状況がいいと思っているんですね。ご存知のように本を取り巻く状況は厳しくなり、次々とまちの本屋が潰れています。一方で、出版業界でも新しい動きがあるし、カリスマ的な店主が経営する本屋が話題にもなっている。そうした動きに敬意を持ちながらも、もっと他のやり方もあるんじゃないか。厳しい状況だからこそ、自分たちならではの本屋のありようをつくっていけるんじゃないかと思っていたのです。(宮迫)

宮迫さんたちが開いた「CAVA BOOKS」 は、1階フロアの壁全面を本棚にした小さな本屋さんだ。大手書店に比べれば本の冊数や種類は少ない。だが、上映作品の関連書籍はもちろん、選書コーナーがあり、絵本から哲学書までツボを抑えた本棚づくりになっており、自分好みの1冊を探す人々が絶えない。1階フロアの中央にあるカフェ「出町座のソコ」もカウンター席のみながら軽食やアルコールもあり、本に囲まれた空間で映画の余韻に浸れるよう工夫が凝らされている。小さなギャラリーでの展示企画やシネマカレッジ京都も、それぞれ映画というキーワードで緩やかにつながりながら、各オーナーたちの個性で運営されている。

——映画の上映スペースにカフェやショップが併設されているのは、そんなに目新しいことじゃないでしょう。田中さんの提案がいいな、と思った理由の1つがシマフィルムだけでやらずに、僕ら外部の人間に声をかけたところなんです。シマフィルムは福知山にある「まちのば」というホールとブックカフェを併設した文化施設の経営もやっているから、経営のノウハウはある。だけど、僕を含め、田中さんとほぼ同世代の4人に書店の部分をアウトソーシングすることでリスクマネジメントできるし、より多くのひとを巻き込むことができる。そういう違う展開が期待できると思ってくれたんじゃないかな。僕も、副業としての本屋さんという実験ができる。複数人で運営すること、それぞれのメンバーが副業として書店に関わること、遠隔地のメンバーもいること(うめのたかしさんは北九州、尾花大輔さんは東京在住)、本屋だけではないことなど、いくつかのオルタナティブな試みができることを考えて、参加することを決めました。(宮迫)

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CAVA BOOKSのロゴは立ち上げメンバーのひとり、尾花大輔さんによる。ブックカバーのイラストはtupera tuperaさん。出町周辺のモチーフが散りばめられている / 1階壁面がメインだが、階段下のコーナーに映画関連書籍を置いたり、パンフレットをまとめて置いたりも / CAVA BOOKSを立ち上げた4人。右から宮迫憲彦さん、尾花大輔さん、小野友資さん、うめのたかしさん

CAVA BOOKSのロゴは立ち上げメンバーのひとり、尾花大輔さんによる。ブックカバーのイラストはtupera tuperaさん。出町周辺のモチーフが散りばめられている / 1階壁面がメインだが、階段下のコーナーに映画関連書籍を置いたり、パンフレットをまとめて置いたりも / CAVA BOOKSを立ち上げた4人。右から宮迫憲彦さん、尾花大輔さん、小野友資さん、うめのたかしさん