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アネモメトリ -風の手帖-

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#53
2017.10

まちと芸術祭

1 札幌国際芸術祭2017の公式ガイドブックを片手に(第1日目)

今、例えば2017年8月27日、日曜日、午前10時の札幌にいるとして。
札幌国際芸術祭2017を見に来ているとして、どこにまず足を運ぶか。作品が発表される場所は複数に散らばっており、出発点をどこにするのか、そこからがスタート。ここからすべてが始まる。
普通、美術館で発表される作品を見るとき、窓口は1つだ。入り口は1か所であり、美術館に入ってしまえば、もう迷うことはない。順路の通りに歩けばいいんだし、日をまたぐことなどない。その日のうちに「見る」は終わる。
しかし国際芸術祭は、まず、「どこへ足を運ぶか」から始まる。作品は複数の場所で同時に発表されている。1日ですべての場所におもむくことはむずかしい。2日、もしくは3日をその芸術祭に費やしてもなお、見落としがある場合も多い。なぜなら、ライブのような、特定の時間に一度きり、というようなこともあるからである。移動距離も鑑賞時間も限られている中で、大規模な国際芸術祭で発表される作品のすべてを、1人の人間が見ることは不可能である。
だから国際芸術祭にはガイドブックが付き物である。国際芸術祭が開催されるたびに、ガイドブックが書店に並ぶ。瀬戸内海や北陸、中越、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州、そして北海道。様々な国際芸術祭が、いろんな名称で開催されている。ほとんど日本全国をカバーする勢い。
何をもって国際芸術祭と呼ぼう?
地域の活性化を目指したアートによる「お祭り」と呼ぶ者もいるだろう。あるいは、「アート」そのものの「活性化」を目指したお祭りとも言えるだろう。もっぱら地域に根ざした作品制作が要請されるため、アーティストをその都度「派遣」しているとも見なしうる。アーティストに「仕事」を与え、そのことによってアート業界そのものの裾野を広げる目論見もあるかもしれない。有名人から無名の新人まで、多数の作家を呼び集めることができるのは、多額の資金が投入される「超巨大美術展覧会」ともいうべき国際芸術祭だからこそである。
とはいえ、ここでは、国際芸術祭の定義を問われたら、いささか素朴に「ガイドブック」があるのが国際芸術祭であると言い切ろう。
ガイドブックを読めば、開催される前から、どんな作品が発表されるか、作者は誰か、その地域のうまいものはどこにあるか、観光スポットは何か、宿はどこがおすすめか、読者はすっかり旅行前のテンションになる。したがってスムーズに鑑賞するための「おすすめコース」があるのは当然であり、訪れる人の条件に合ったモデルコースが掲載されている。どこからスタートして、何を見て、どのように移動して、所要時間はどれくらいか。ある意味で国際芸術祭は「時間との戦い」である。『完全コンプリートガイド 札幌へ アートの旅 札幌国際芸術祭2017公式ガイドブック』にも「SIAFの巡り方」と題して「かけあしSIAF、2日で制覇」「たっぷりSIAF、芸術祭の旅を満喫する3日間」など、ダイジェストで芸術祭が楽しめるように工夫されている。