ここ最近、「地方に住む」ことは、当たり前の選択肢となりつつある。スマホとパソコンさえあれば、どこに住んでもさほどの不自由はないし、仕事もできる。また、自分で仕事をつくりだすことも可能だ。それぞれが豊かな人生のありかたを考え、実践するようになってきたのだと思う。
今回取り上げる奈良県の東吉野村は、もっとも注目される地域のひとつ。「奥大和」と呼ばれる奈良の山深い土地で、清い水と空気に恵まれている。
これまで紹介してきた徳島県・神山町や島根県・海士町などが地域移住のはしりだとすれば、東吉野村の動きはわりと最近になる。特徴的なのは、移住者の層が厚いことと、いい意味で過剰な思い入れがなく、等身大であることだと思う。
この地に移り住んだ若手クリエイターたちが、それぞれのライフスタイルを見つけ、協働するなかで大きな変化が起こりつつある。ゆるやかなつながりは、ITで知られる神山のように何かのジャンルに特化したり、海士町のように、その土地に思い入れがあって移り住むというのではなく、もっと等身大だ。移住者の層も厚く、村での暮らしについても、いい意味で期待しすぎない。
移り住んだ若い世代がそれぞれのライフスタイルを築き、ゆるやかに協働するなかで、これまでにない変化が起こりつつある。そのありかたは、地方で生活することの今とこれからを感じさせる。そのきっかけとなり、中心となって動くデザイナー、坂本大祐さんを中心に、東吉野村のありかたを4回にわたって取り上げたい。
坂本大祐(さかもと・だいすけ)
デザイナー。1975年大阪狭山市生まれ。都市部で働いていたところ、身体を壊したのを機に、山村留学で中学生のころに暮らした東吉野村へ移住。現在は商品や店舗のデザインなどを手がけ活躍中。生活は正反対になったが、自分にしかできない仕事へとシフトできた今の生活が気に入っている。現在は県・村・移住したクリエイター陣とタッグを組んでつくった「オフィスキャンプ東吉野」を運営中。