7)小さな経済で維持して、まちとひとに還元する
石巻「まちの本棚」 勝邦義さん3
勝さんたちは、お客の反応を見ながら、まちの本棚の「いろんな使い方」を試している。本をどう扱うかに始まって、本と直接関係のないところまで広げてきた。
———最初は閲覧しかしてなかったんですが、今では貸本が大きくて、それ以外に古本販売とか企画展、たまにセミナーも副事業のようにやっています。借りに来るお客さんに対して、そういう接点をつくっている感じですね。
それから、本には興味なかったけど、入ってみたら興味が湧いたという流れがつくれたのは、金物などを扱う「荒物」のお店とコラボしたイベントですね。入って左側をギャラリースペースと呼んでいますが、そちらにポップアップショップをつくったんです。
そのほか、新潟のものづくりを続けるユニット「エフスタイル」を呼んだり、新潟の個人書店「北書店」の佐藤雄一さんに本棚をつくるワークショップをやってもらったりと、本から広げた楽しいイベントも行ってきた。
そうして本を通してひとを呼ぶとともに、本を通して何かやりたいひとに向けた企画にも力を入れている。
———2014年から始めた「いしのまき本の教室」という連続講座は、本に対してアクションを起こすひとを増やしたいと思って始めました。これには、あらゆる本に関わる職種のひとに来てもらうつもりで、第1回目のゲストが前野さんでした。「本なんかで、そんなにひとが来るはずない」と思っていたのに、意外にもたくさん参加してくれて、みんな目的がはっきりしていて。例えば自分の家の一角に本がたくさんあるから、それを使って何かしたいとか、自分の持っているスペースと本を使って、開かれた場所をつくりたいというひとがけっこういたんですね。
前野さんをはっとさせた、沿岸部などの、本で何かやりたい方たちである。
大きな被害を受け、ひとの流出も続く地域の方々が、なぜこんなに本で何かやりたいと思うのか、前野さんの話を聞いていたときにはまだ正直わからなかった。しかし、こうして「まちの本棚」に来てみて思ったのは、やはり「本」だから、ということだった。本は、世代も性別も超えて、誰かと接点を見つけやすいのだ。
勝さんはこれから、本を通して石巻のひとやまちとの関わりをまた違うかたちで持とうと思っている。
———雇用を生み出すパワーがまだないですが、小さな経済で維持しながら、広域的な、地域がよくなる働きができたらいいんじゃないかと思っています。
今考えているのは、貸本事業の書架貸しです。仮ですけど「うずまき文庫」という名前で、棚ごと貸すんです。病院とか喫茶店の一角とか、日常的に本がある場所と時間単位で契約のようなものを結び、そこの本棚をキュレーションして、本を入れ替えたり、選んだり、貸し出したりというしくみ。
たとえば、病院に行くとけっこう長い時間を過ごすと思うんですが、病院にあるのは気が滅入る本ばかりなんです。そんなふうに、本がある場所が価値ある場所になっていないことがあるので、その価値づけをやっていきたいですね。
ブックセレクターが本棚をつくること自体は珍しくないけれど、「まちの本棚」の構想が新鮮なのは、本を循環させつつ、まちに寄り添い、まちとひとに還元しようというところだ。
勝さんは「本のイベントは静かで、熱い」と言っていたけれど、「まちの本棚」も同じように、静かで熱い。そうしてひたひたと情熱を傾けながら、利用者とともに「まちの本棚」を進化させてゆくのだろう。