3)湯梨浜町に「着陸」する
そこで目にしたのは、東郷池のほとりに建てられた「おもしろハウス」だった。
———自分らで建築したバラックみたいな(笑)。面白いなと思って。その頃、自分は建築したかったけど、まだ何のスキルもなくて憧れているだけだったんですが、先駆者がいた。彼らにまちはどんなところか聞いたら、「面白いおばちゃんたちがいてね、自分らのこういう謎の取り組みも面白がってくれるんだよ」と言ってて。「そりゃあ良いまちだな」と思いました。
おもしろハウスを建てた蛇谷りえさんと三宅航太郎さんは、ほどなく湯梨浜で複合型スペース「たみ」を始める。カフェやギャラリーがあって、ゲストハウスとシェアハウスを兼ねる場所だ。そこにモリさんは長期滞在者として移り住むことにした。
———(湯梨浜に)最初に来たとき、湖をみて、わっと思ったんですよ。こんな気持ちいい、開けた感じのまちあるんだな、と。あと温泉もあって、駅が近い。おばちゃんたちはウェルカムな感じでいてくれて、面白くなりそうだと思いました。とりあえず住んでみて、いいなと思えたら、このまちで本屋をやろうかと。
個性的な人が集まった「たみ」で過ごすうち、モリさんは「もっと良くなっていきそう、本屋をやっていけるかも」という予感を抱く。「たみ」の三宅さん(現在は運営を外れている)に「ボロボロでいい、とにかく安い物件」を訊ねたら、すぐそこにあると案内されたのが、後に汽水空港となる小さな倉庫だった。
そこから話は急速に進んだ。「神様のような」女性の大家さんは「好きに使っていい、家賃もいらん」と言ってくれて、後は開業資金を用意し、物件の改装をすすめるのみ。とはいえ、まったく建築の経験のない、蓄えもないモリさんが自力でやるというのは大ごとだ。左官屋のバイトで資金を貯めつつ建築のことを教わって、少しずつ改装をすすめ、2015年の10月、ほぼ3年がかりで「汽水空港」を開店する。本屋のなかった松崎エリアに、本屋がひらかれたのだった。
家賃も安い、生活費もかからないと楽観していたモリさんだが、いざ開けてみたら、小さなまちで、新参者の開いた「謎の店」にやってくる人はほとんどいなかった。


鳥取は雪が多い。大雪注意報が出たときには、梁の下に補助として雪対策の柱を入れる。自分で建てたからこそ心配な部分もわかる / モリさんの切実さとユーモアが伝わってくるひとこと


