5)自分たちの文化を持ち寄り、育てていく
地域の文化施設がコミュニティのハブとして続いていくうえで最も重要なことはなんだろうか。小篠さんは「地域住民の参加の仕方」だと語る。
———地域が持っている魅力を、最大限に引き出すことができる。そういう拠点をつくれることが、地域に文化施設を建てるメリットだと思うんです。そのときに大事になるのが、地域に暮らしている人たちが、どういうふうにそこに参加するか、ということです。
住民が自分のまちについて「いいよね」「誇れるよね」と思っているものが、文化施設のなかにちゃんとあり、彼ら自身の手で企画として展示されたり、体験できたりする。そのことが何より大切だと思っています。そこでやるべきことは、地域に根差した文化をどういうふうに来館者に体験・体感してもらうか、ではないでしょうか。
では、「住民が主体的に参加する」とは、どのような状態なのだろうか。その好例として挙げられるのが、「せんとぴゅあ」で開催されてきた「Higashikawa Christmas Market(東川クリスマスマーケット)」だという。
毎年12月初旬に開催され、町内の家具事業者や飲食店など約100店舗が出店するこのマーケットは、もともとは町役場主催の町内事業者による家具・クラフトの見本市が始まりだった。そこに、「もっと冬の暮らしを楽しむようなイベントにできないか」と、町内の家具メーカー「北の住まい設計社」などが企画から加わるようになり、2023年から現在の行政と民間が協働する形へと発展した。
会場は、「せんとぴゅあⅠ・Ⅱ」を中心に、「東川町文化ギャラリー」「東川町共生プラザそらいろ」が連携。3つの施設を巡りながら、買い物やワークショップなどを楽しむことができる。


2025年12月に開催された「Higashikawa Christmas Market」の様子。北海道の厳しい冬を豊かさに変えて楽しもうとする企画だ。「せんとぴゅあ」では、芝生広場も含む全館を挙げて開催され、多くの人が町内外から訪れた(写真提供:東川町)
———3つの会場を巡るスタンプラリーでは、「せんとぴゅあ」で撮った記念写真を文化ギャラリーでクリスマスカードにできるとか、さまざまなイベントもありました。全館を挙げてブースが並び、「せんとぴゅあ」を使い倒してくれている。設計者としてもすごくうれしかったですね。「あなたも当事者」「あなたも主役」という空気が、「せんとぴゅあ」に生まれてきているように感じます。これは文化施設にとって、とても大事なことだと思います。
有名な展示を見に行くというより、自分たちの文化を持ち寄り、育てていく場所。そうした地域住民が主役となる場のあり方が、「せんとぴゅあ」という施設を媒介に、少しずつ形になってきているようだ。
「せんとぴゅあ」は、いま多様な人たちが活用する「みんなの場」になってきている。こうした開かれた場づくりにおいて、小篠さんが参考にしたのが、イタリアの地域コミュニティの拠点「地区の家」だという。(参照:アネモメトリ#143「社会を変えるデザイン」)
「地区の家」は、少子高齢化や移民の増加、広がる経済格差などを背景にコミュニティのつながりが希薄化するなか、地域住民が主体となって生活環境を改善したり、地域を支える社会・文化活動を行う拠点として、イタリアの北部都市トリノを中心に2000年代から広がってきた。地域によって抱える課題は異なるため、共通の理念は持ちつつも地域ごとに「地区の家」の形は変わる。小篠さんは、そのあり方を実地調査し、共著書『「地区の家」と「屋根のある広場」―イタリア発・公共建築のつくりかた』(鹿島出版会)にまとめている。
———本の調査と「せんとぴゅあ」の計画の時期がちょうど重なっていて、「せんとぴゅあ」は「地区の家」から相当インスパイアされています。運営の仕方やプログラムのつくり方、そこに関わっている人たちの考え方に相当影響を受けているんです。町民の運営するコミュニティ・カフェは、イタリアの写真を見てもらって、「これをやりましょう」となりました。
「地区の家」の大きな特徴の一つが、万人に開かれていること。男女の区別や国籍、宗教などに関する違いを超えて、子どもから高齢者まで誰でも来られるオープンさがあることだ。「せんとぴゅあ」も誰もが気軽に立ち寄り、佇める場にすることを大切にしたという。
———「せんとぴゅあ」も、現在、いろんな人の居場所になっていますよね。それはすごく大事なことだと思っています。「せんとぴゅあ」にだったら来られるという人がいると思うんです。たとえば、不登校の子たち。「ここで本を読むのが好き」と思っている人もいるかもしれない。そうなってほしいと思ってつくったんです。敷居が低い、というか。散歩のついでに寄った、とかね。何をしていても怒られないからずっといる、「今日はあれを見てみようかな」と思って来る、とか。
夏場だけなんですが、芝生広場との間に大きな庇が出て、その下に白いテーブルと椅子を置いています。そこはすごく大事な場所で、何をしていてもいいんです。ご飯を食べていても構わないし、ペットと休憩していても構わない。「何をしていてもいい場所」を用意することが、すごく大事だと思うんです。
ただそこにいていい場所を用意すること。なにかと意味や目的を求められがちな現代社会において、その余白こそが、文化施設に求められているものなのかもしれない。それは、東川町が目指す「適疎の町」という理念にも通底するあり方のように思えてくる。
——最終回の次号では、東川町の飛躍の過程と、過渡期を迎える41年目以降の東川町について菊地伸町長に話を聞いた。そして民間の小さな文化拠点の胎動についても紹介したい。

ノンフィクションライター・編集者。1981年、札幌生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。出版社勤務を経て2019年に独立。編集した本に『東川スタイル』(玉村雅敏・小島敏明/編著、産学社)。Yahoo!ニュース 特集で「ちょうどよい『適疎』の町へ― 北海道東川町、人口増の秘密」を取材・執筆。2021年に出版社の株式会社どく社を仲間と立ち上げ、代表取締役に就任。絵本作品に『海峡のまちのハリル』(三輪舎、小林豊/絵)。共著に『わたしと「平成」』(フィルムアート社)ほか多数。本のカバーと表紙のデザインギャップを楽しむ「本のヌード展」主宰。
山形県出身、京都市在住。写真家、二児の母。夫と一緒に運営するNeki inc.のフォトグラファーとしても写真を撮りながら、展覧会を行ったりさまざまなプロジェクトに参加している。体の内側に潜在している個人的で密やかなものと、体の外側に表出している事柄との関わりを写真を通して観察し、記録するのが得意。 著書に『ヨウルのラップ』(リトルモア 2011年)
http://www.naritamai.info/
https://www.neki.co.jp/
1992年鳥取県生まれ。京都の編集プロダクションにて書籍や雑誌、フリーペーパーなどさまざまな媒体の編集・執筆に携わる。退職後は書店で働く傍らフリーランスの編集者・ライターとして独立。約3年のポーランド滞在を経て、2020年より滋賀県大津市在住。
文筆家、編集者。東京にて出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。書籍や雑誌の執筆・編集を中心に、アトリエ「月ノ座」を主宰し、言葉や本に関するワークショップや展示、イベントなどを行う。編著に『辻村史朗』(imura art+books)『標本の本–京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)限定部数のアートブック『book ladder』など、著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など多数。2012年から2020年まで京都造形芸術大学専任教員。


