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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#152
2026.01

41年目の東川町 文化のまちづくりを俯瞰する

2 重ねつづける拠点「せんとぴゅあ」  北海道・東川町
3)椅子から生活デザインを辿る「織田コレクション」

「家具デザインアーカイブス」の収蔵品のなかで、一際存在感を放っているのが椅子のコレクションだ。雑誌で見かけるようなデザイン史を彩る名作椅子から、見たことのない独創的なフォルムの椅子まで、図書スペースの隣やギャラリースペースにずらりと並んでいる。

これらは、北海道東海大学名誉教授で世界的な椅子研究家・織田憲嗣さんが1970年代から世界中で収集してきた家具や日用品のコレクション「織田コレクション」の一部。20世紀の家具デザイン史を実物で辿れる、世界的にも貴重な資料だ。

そんな貴重な資料がなぜ東川町にあるのだろうか。

織田さんは北海道東海大学(当時芸術工学部が旭川にあった)で教鞭を執るため、東川町の隣町で、旭川家具の産地である東神楽町へ1994年にコレクションとともに移住。以降、膨大なコレクションをどのように保管し、継承していくかは、旭川家具の関係者や関係自治体の議論の的となってきたという。

そのなかで、「町内家具クラフト産業のデザイン力向上に資する」との考えから、東川町が2016年度からコレクションの公有化を進めてきた。それをきっかけに、いま町ではコレクション活用のためのデザインミュージアム構想も生まれているという。この動きについては、最終号で触れる予定だ。

暮らしを大事にする、よいものを長く使っていくということを本物を通して伝えたいと集められたコレクション」と、地域おこし協力隊で展示を担当する斉藤知子さんは説明する。

まちづくりと地方移住を同時に支える「地域おこし協力隊」として東川に移り住み、織田コレクションの展示を担当する斉藤知子さん

———織田先生がユニークなのは、集めたコレクションを、実際のデザインに役立ててきたことです。集められたものは生活の道具なので、実際に使って、使い勝手や心地の良さまで研究する。それをメーカーとの製品開発や復刻に活用されてきたんです。

コレクションの中心は1350脚ほどの椅子だが、それだけにとどまらない。テーブル、食器やカトラリー、照明器具、さらには図面や文献などの資料まで含まれ、総点数は2万数千点にのぼる。貴重な北欧家具が多く収蔵され、質量ともに世界のデザインミュージアムに匹敵すると言われている。

「せんとぴゅあ」では、年に2〜3回展示替えを行いながら、コレクションの一部を展示スペースやギャラリーで公開している。訪れたこの日は、ノルウェーやスウェーデンなど北欧4ヵ国の椅子の歴史をたどる展示が開かれていた。

「織田コレクションを目当てに、全国から訪れる人も少なくない」と高石さんは言う。

———織田コレクションを通じて、東川を知ったという方もたくさんいます。そんなお客さまに写真や大雪山文化の展示も見ていただき、大雪山を目当てに来られたお客さまには写真や家具も見ていただく、というふうに融合が生まれるようにしています。「何が展示のメインなんですか?」と聞かれると、あれもこれもなのですが、そのごちゃ混ぜ具合が「せんとぴゅあ」の一番の特徴だと思っています。

ある文化に興味を持って「せんとぴゅあ」を訪れる。だが、そのなかで、知らなかったこと、そもそも興味がなかったこと、つまり「異なる文化」にも出会い、訪れた人たちの世界が豊かに広がるしかけになっている。「せんとぴゅあ」は、年間20万人が訪れるというから、その影響力は少なくない。文化の「ごちゃ混ぜ」は、「せんとぴゅあ」だけでなく、東川町そのものの特徴であり、目指す姿とも言えそうだ。

取材時は「Timeless Nordic Design」展が開催(2025年5月23日〜2025年11月24日)。コレクションを築いた織田さんの暮らしに焦点を当てながら、北欧と日本、そして東川町に通じる「時代を超えて生きるもの=Timeless」なデザインを紹介。椅子を中心にその国の風土ならではのプロダクトも展示された。写真は「せんとぴゅあⅠ」のギャラリー