1)町の中心に文化拠点をつくる
「せんとぴゅあ」は「Ⅰ」と「Ⅱ」の2つの施設で構成されている。前者には公立日本語学校やギャラリー施設などが、後者には図書、展示スペースなどが入っている。
「せんとぴゅあⅡ」に足を踏み入れると、広々とした空間に書架が並び、一見、図書館のようだ。だが、施設内を歩いていてまず驚くのは、人びとが「ふつうの声の大きさ」で会話していることである。
「せんとぴゅあには貴重な写真集があって——」と案内してくれる写真の町課課長・大角猛さんの声の大きさも書架の前とは思えないボリューム。「そんなに大きな声でしゃっべてもいいんですか?」と声をひそめて聞くと、大角さんは「静かに過ごしたい人は、学習室で過ごせるようになっているんです」と当たり前のように答える。
一般的な図書館では、声を出してよいのは視聴覚室や読み聞かせスペースなどに限定されている。ここはその真逆の空間構成だ。
館内を見渡すと、ノートパソコンで仕事をする人、手芸を楽しむ人、勉強している留学生や高校生、スマホゲームに夢中な中学生もいる。みなそれぞれの時間を過ごし、場の空気はとても自由だ。公共施設にありがちな禁止事項を少なくすることで、むしろ居心地のよさが生まれている。
どうして“図書館らしくない”施設になっているのか。その成り立ちを知るため、「せんとぴゅあ」を運営する文化交流課を訪ね、課長の高石大地さんに話を聞いた。

高石大地さん
———「せんとぴゅあⅠ」はもともと小学校があったところで、「Ⅱ」はそのグラウンド跡地なんです。小学校は移転したのですが、ここは碁盤の目状に整備された町の中心で、立地としては一番いい場所。空いた校舎で、当時必要だった日本語学校の校舎とギャラリー施設をつくって「Ⅰ」を先に開きました。グラウンド跡地にも、図書館機能を持ち、文化を発信しながら、多くの人が交流できる施設がほしいという住民の要望から、「Ⅱ」を立ち上げたという経緯です。
「せんとぴゅあ」は、旧東川小学校跡地の再活用として2016〜2018年に段階的につくられた。「どう活用するかの話し合いのなかで、住民の一番強い要望があったのが図書館だった」と高石さんは言う。「せんとぴゅあ」の蔵書数は、6万冊以上と、町の規模としては十分に充実している。ただ、ここは住民が求めた図書館にとどまらず、美術館、博物館、イベントスペースなどさまざまな文化・交流機能をあわせ持つ施設となっている。その理由を尋ねると、高石さんは「それが東川らしさなんです」と答える。
———図書館自体もなかったので、やはり町として必要なんですよ。だけど、あえて東川町では、それを「図書館」ではなく、ここでは「図書機能」と呼んでいます。図書館、美術館、博物館としてしまうと、省庁の管轄が縦割りになり、制約が生じてしまう。小さな町でもあるので、それらを一つにまとめる施設を考えたわけです。
せんとぴゅあは、図書館法に縛られる「図書館」でも、博物館法に縛られる「博物館」や「美術館」でもない。だが、それらの「機能」をあわせ持つ独自の文化拠点となっている。この「複合性」は施設の「わかりにくさ」につながるが、同時に固有性を形づくる要素でもある。
財源には地方創生の交付金を活用している。この枠組みによって、施設内での物販や飲食、図書スペースを活用した展示・イベントなどがより自由に可能になったという。
———文化は、生きていくうえでの必要条件、絶対条件ではないですよね。文化展示の部分は、正直なところ、住民の強い要望があったわけではないんです。だけど、町として、町民のみなさまの暮らしを豊かにしていくことが「東川らしさ」だと考えてきたんです。異なるものを混ぜることで交流が生まれ、混ざっていることがよさになる。それは、私たちが写真文化から学んだことです。「複合」という部分こそが、東川だからできることなのではないか、と。
そもそも地方創生の交付金では、図書館や美術館の建設はできない。それにもかかわらず、本来以上の複合機能を備えた施設を実現しているところに、固定観念にとらわれない発想が見て取れる。こうした発想の背景にも、「写真の町」が長年育んできた文化的土壌の存在がうかがえる。




図書スペースには4段の低い本棚が並び、空間が広々としている。学習室や絵本を揃えたキッズスペースなどの個室もあるが、全体的に空間の垣根がゆるやか / 館内のショップ「東川ミーツ」は第三セクターの東川振興公社が運営。町内の事業者による家具・クラフトを中心に、米や酒などの特産品が販売される


