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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#150
2025.11

サステイナブル・ファッションの現在 イギリスから考える

3 「本気の取り組み」を「自分ごと」に
2)アカデミズムとビジネスをつなぐ
サンディ・ブラックさん2

サステイナブル・ファッション・センターはビジネス界と協働し、ファッション産業にも影響を与えている。サンディさんのような業界経験者が大学と社会をつなぎ、一方の企業も持続可能性を追求しようと活動に参加して、互いに敬意を持って互恵的な関係を築いてきた。

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ファッション業界の意識を変えたかと問われれば、確かにそうだと思います。私も15年間小規模ビジネスを経営した経験があり、海外展開したものの財務的には非常に難しいものでした。その経験があるからこそ、小規模企業との研究協働にも力を入れてきたのです。
サステイナブル・ファッション分野における小規模・零細企業を支援し、書籍の中でも個別の事例を取り上げてきました。いくつかは長く存続できていますが、もちろん続けられなかったところもあります。それでも彼らは資源や地球だけでなく「人間の価値」を尊重し、ファッションを異なる形で行う方法を示してきました。多くが循環型の取り組みを先駆けて実践しており、そうした活動を私は評価しています。

たとえばクリストファー・レイバーン(RÆBURN)がいます。彼はロイヤル・カレッジ・オブ・アート出身で、もう15年以上ブランドを続けており、まさに象徴的な存在です。私は彼を教育したわけではありませんが、いくつかの著書で紹介しました。
またエルヴィス・アンド・クレッセ(Elvis & Kresse)というブランドとも何度も仕事をしました。彼らは驚くべきアップサイクルの事例で、ロンドン消防局で廃棄された消防ホースを素材にし、それを革の代替素材として使ってバッグやアクセサリーを制作しています。私は彼らと3つほどのプロジェクトを行いました。こうした小規模事業は生き残りに苦労しますが、廃棄物の価値を見直し、循環型の考え方を広める上で非常に影響力がありました。出版物や研究資金を通じて彼らを支援してきました。数千ポンドの助成でも、小規模事業にとっては大きな意味を持つのです。

RÆBURNのWebサイトより

———日本でも多くのデザイナー、ブランドは小規模ビジネスなので、そのような支援があるといいですね。

マークス・アンド・スペンサー(Marks & Spencer)など大手と仕事をした経験もありますが、センターにおける私の研究・知識交換活動の多くは小さな企業を対象にしています。
近年の大きなプロジェクトのひとつが「持続可能な実践の育成(Fostering Sustainable Practices)」です。約50社の小規模企業と連携し、学術論文もいくつか発表されました。現在は同僚のミラ・ブルチコヴァとともに、羊毛を再評価するプロジェクトに取り組んでいます。

これはファイバーシェド(Fibershed)というエシカル繊維の国際組織と協働し、イギリス南東部と南西部で農業とファッションを結びつける活動を進めました。農家とデザイナーをつなぎ、羊毛の価値を再認識させることが目的です。

羊毛は中世のイギリスでは経済の中心で最大の輸出品でしたが、その価値は著しく低下しました。化学繊維が主流になって、農家が羊毛を焼却したこともありました。現在もメリノ種の柔らかな羊毛はオーストラリアやニュージーランドから輸入されていますが、イギリスには56種もの羊がいて、それぞれの羊毛を活かす方法を模索しています。これはチャールズ国王が皇太子時代に立ち上げた「ウール・キャンペーン(Campaign for Wool)」とも関係する取り組みで、まだ「意識啓発」の段階にありますが、非常に重要です。

スクリーンショット 2025-10-24 11.31.33ファイバーシェドのWebサイトより転載

大学と業界が互いに協力し、持続可能な社会の可能性を探求しているイギリスの状況は、とても魅力的に見える。大学も業界も既存のあり方に危機意識をもち、新しいファッションを批判的に考える姿勢をもっているからだ。それに対して、戦後急成長した日本の既製服産業は、現在は低迷期にあるにもせよ、過去の成功体験から抜け出せず、相変わらず大量生産・大量消費型のやり方に固執している。服飾教育界もまた旧来の発想から脱しておらず、本気で現状を変えようとしていない。