1)新しいジャンルとして切り開く
サンディ・ブラックさん1
イギリスでサステイナブル・ファッションといえば、実践・研究の領域としての輪郭も整ってきたが、センター設立当初の16年前、この分野はまだマイナーで、無関心な人のほうが多かったはずである。まず、センターがイギリスのサステイナブル・ファッションの展開に果たした役割について尋ねてみた。

サンディ・ブラックさん
とても大きな問いですね。確かに、センターは先駆的な役割を果たしてきたと思います。私たちは「教育・研究・知識交換」という三本柱を掲げ、その下で多様な活動を進めてきました。 この16年で、持続可能性は「意識啓発」の段階を終え、「行動」の段階へと移るべきものとして理解されるようになりました。
———あなたはディリス・ウィリアムズさんヘレン・ストーリーさんとともに、持続可能なファッション研究という分野を開拓されたわけですね。
私たちはこの研究領域を切り開いてきたと思います。かつては「ファッションは商業活動であり、研究対象にはならない」と見なされていましたが、現在では大きく状況が変わりました。コペンハーゲン・ファッション・サミットなど国際的な取り組みにも深く関わりました。産業界にも影響を与え、学生や若い世代を巻き込んで活動してきたことも大きな意味がありました。
当時のカレッジ学長がリスクをとってセンター設立を支持し、ディリスを中心に多彩な人材を集めたことが大きかったです。議会との連携も少しずつ進め、ファッションの倫理と持続可能性のための超党派の議員グループ(APPG)での提言やイベントも行いました。政府の動きは遅く、たとえば2019年の報告書で多くの勧告がなされたにもかかわらず、実行されませんでしたが。
———センターの設立時から参加されていますが、当時はどのような状況だったのでしょうか。
2008年にセンターが設立され、同年に私の最初の著書『エコシック : ファッションの逆説』も出版されました。この年はケイト・フレッチャーの最初の著書(『サステイナブル・ファッション&テキスタイル : デザインの旅』(2008))など、サステイナブル・ファッションの研究が公に現れ始めた時期でした。私は以前から資源の廃棄や不必要な浪費を憎んでいて、それが持続可能性に取り組む原点でした。ですから、センター創設時から関わってきたのです。
私は2004年の段階から取り組んでいましたが、当時はまだこの分野は一般的に関心が低く、ほとんど相手にされませんでした。
———センターに参加される以前はどのような活動をされていたのですか。
私はロンドン・カレッジ・オブ・ファッションに来る前、ブライトン大学でファッション・テキスタイル・コース長を務めていました。私は元々ニットのデザイナーで、業界経験を活かしてニットウェアを教えていたのです。
2004年に「ファッションを問い直す(Interrogating Fashion)」という資金助成プロジェクトを立ち上げました。研究助成会議から初めて研究資金を得た取り組みで、21世紀のデザインをテーマにしたプログラムの一環でした。
プロジェクトの目的はネットワーク形成でしたので、私は研究のネットワークを立ち上げ、ファッションがどのように作られ、何を変えられるのかを議論しました。2005年にはこのネットワークを1年間運営しました。私は人を集めネットワークを作るのが得意なのです。
多様な分野の人々を集めたいと考え、科学者、産業関係者、学者、理論家などを招きました。例えば、ユニリーバの研究者ともつながりがありました。私のバックグラウンドはもともと数学で、その後ニットウェアのデザイン、教育、そして科学と芸術の橋渡しへと進みました。だから工学系の研究評議会と人文系の研究評議会が合同で行ったこのプロジェクトは、私にとって理想的なものでした。
「ファッションを問い直す」では、複数のテーマでワークショップを開きました。たとえば「ファッションの逆説:一時性と持続可能性」、「デジタル・ファッションの未来」、「文化と文脈、展示と参加」などです。これらを軸に将来の研究課題を議論しました。
その後「ファッションを最適化するデザイン」という研究も進めました。これは個々人のニーズと環境配慮、コストの問題をどう両立させるかを探るものでした。シームレスニッティングや3Dプリンティングといった新技術に注目しました。
さらに、2009年には学術誌『ファッション実践:デザイン、創造過程、ファッション産業』を創刊しました。当時は研究者向けの学術誌(『ファッション理論』など)はいくつかありましたが、実践者の視点を反映する学術誌は存在せず、そこに大きなギャップを感じていました。実際に作り手やデザイナーは学術論文を書くことが少なく、学界との断絶があるのです。その橋渡しをするために『ファッション実践』を立ち上げました。現在で17年目を迎えています。

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