1)「厄介な問題」にどう取り組むか? 大学の現場より
私は昨年(2024年)、イギリスにある6つの大学を訪れて教員・研究者に話を聞いたが、強く印象に残っているのは、彼らがサステイナブル・ファッションを実現しようとする、その本気さであった。もっとも私が会ったのはこの分野にかかわっている人たちが多かったので、それも当然のことかもしれない。実際、かかわっていないファッション教員の中からは、服飾産業と持続可能性は相いれない、負け戦(loosing battle)だろう、との意見も聞かれた。しかし、価値観の違いはあるにせよ、彼らもこの問題を重要とみなし、持続可能なファッションについての自分の意見をしっかりもっていたと思う。
その要因のひとつは、EU圏の環境問題への関心の高さだろう。市民や若い世代の意識が高く、NGOの活動も盛んなので、政治家も争点化しやすく、環境政策が意欲的に進められてきた。イギリスはEUを離脱したとはいえ、企業がEU圏内でビジネスをするためにはその環境法制に従う必要がある。
EU諸国、とくにフランスは、アパレル企業に再生素材の使用を義務づけたり、リサイクル回収コストを課すなどの先進的な規制が立てられており、英ファッション産業も対応を迫られている(国内の法的義務化は検討中)。市民の環境意識が高いので、うわべだけ対策して実質が伴わないと、監視団体が調査して「グリーンウォッシュ」と判定され、下手をするとブランド価値が損なわれてしまう。日本と違って、課題の達成に本気にならざるをえないのだ。しかし、サステイナブル・ファッションは「ウィキッド・プロブレム(wicked problem)=解決の難しい問題」(*)なので、産業界は大学に助言や知恵を求めるし、大学も役割や責任を果たそうとしてきた。
(*)デザイン、サステイナビリティの分野でのキーワード。問題が大きく複雑で、関係者の立場が相反・錯綜しており、容易に解決できない問題のことを指す。