4)文化から持続可能性をさぐる
フランチェスコ・マザレラさん4
サステイナビリティというと、衣服の大量廃棄などの環境問題を想起しがちだ。しかし、イギリスでは環境とともに、経済、社会、文化の持続可能性も重視されている。この国のサステイナブル・ファッションは環境問題と同じく、人権問題とも向き合ってきた。それはファスト・ファッションが発展途上国の労働者搾取、また先進国の服飾産業衰退をもたらしてきたからだ。
センターが立ち上がったとき、ヘレン・ストーリーやルーシー・オルタのようなアーティストが参加していたのも、その問題意識からだろう。
ストーリーはファッションと科学を結びつけて、気候変動や移民の問題に呼応してきたソーシャルアーティスト、デザイナー。オルタは世界的に著名なビジュアル・アーティスト、参加型実践や協働手法を用いて周縁にいる脆弱な人びとや共同体にかかわってきた。2人はフランチェスコの「先達」にあたる、センターの第一世代ということになる。
———日本ではあなたのような活動をソーシャルデザインと呼ぶようですが、あなたはご自身をファッション・アクティヴィストと言っていますね。ソーシャルデザインとアクティヴィズムの違いはなんですか。あなたの恩師の1人はヘレン・ストーリーさんですが、あなたのほうがより活動家的ですね。
ルーシー・オルタは自らを社会関与型アーティストと定義していますし、ヘレン・ストーリーは著名なファッションデザイナーでしたが、現在は難民キャンプでの活動に力を注いでいます。私は自分をデザイナーとしてよりも、アクティヴィストとしての資質の方が高いと感じています。
アクティヴィズムという言葉は政治的な響きがありますが、必ずしも直接的な政治活動に限りません。デザイン・アクティヴィズムは、社会、文化、環境、経済、制度、政治をポジティブに変化させるカウンターナラティブを創造するためのデザイン思考、想像力、行動を意味します。私はファッションの分野で活動し、その素材やプロセスを活用して社会を変革する手助けをするのです。
一方、ソーシャルデザインは、社会的ニーズに対応し、新しい社会関係を生み出すための方法です。違いとしては、すべてのソーシャルデザインがアクティヴィズムであるわけではありません。シンクタンクや政府、NGOが行うソーシャルデザインもありますから。私は常に社会変革を目的にしているので、2つを組み合わせていると言えますね。
フランチェスコによると、アクティヴィズムとは社会変化に向けた「カウンターナラティブ」、対抗的な語りをつむぐことである。彼の活動には現状に対する批判的な考え方がある。彼は持続可能性の議論や実践に文化という入り口を持ち込むことの重要性を強調した。文化は人びとが自分の価値観や精神性とつながるための手段だ。難民にとって、物質的な所有物はなくても、価値体系や物質文化は心に深く刻まれ、移動生活のなかでも持ち運ばれているものだからだ。
このようなアプローチはLCFサステイナブル・ファッション・センターが発展させてきた思想とも関係している。次に、サステイナブル・ファッションとは何か、センターはどう運営されているか、見てみよう。

参加者をエンパワーメントするメッセージが入った作品も
取材・文:成実弘至(なるみ・ひろし)
京都女子大学教授。服飾文化論。著書に『20世紀ファッション』(河出文庫)、編著に『ファッションヒストリー1850−2020』(ブックエンド)、『コスプレする社会』(せりか書房)、共著に『映画で読み解く現代アメリカ2トランプ・バイデンの時代』(明石書店)など。2024年ロンドンメトロポリタン大学客員研究員。
写真:富岡秀次 / Shu Tomioka
85年に東京でフリー・フォトグラファー。 90年からロンドンをベースに、ミュージック、ファッション、旅、映画、演 劇、ミュージカル、バレエ他、英文化全般を対象に撮影活動をしている。 ミセス、装苑、ハイ・ファッション、ELLE、アエラ、GQ、Vogue Japon、花時間、スカイワード、 デパーチャー、Number、ペン、プレーヤー・マガジン、ギター・マガジン等 多数。 連載は93年の6月号から『レコード・コレクターズ・マガジン』で〝ブリティッシュ・ロックの肖像″を、毎月2ページ執筆&ポートレート撮影。 現在も継続している。
近年の仕事に、高松宮殿下記念世界文化賞受賞者 アイ・ウェイウェイ 艾未未撮影 (産経新聞他)/ 料理研究家 エリオットゆかりホームページ制作 https://www.yukari-elliott.com/ ブレイディーみかこ公式フォトグラファー (文春社、新潮社、リクルート社、東本願寺出版など)/ 「世界の果ての理想郷 セブン・シスターズ編」(Signature2022年)/「80億人の旋律」アイルランド 血の日曜日編、ミュージック・セラピー編 、ヒルズブラ悲劇編(共同通信2023年)/「ロンドン近郊列車の旅」 (家庭画報2023年)/「Heanvenly Cream」( 2枚組CD&LPのジャケット)(Bluestown Music2023年)など。
文筆家、編集者。東京にて出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。書籍や雑誌の執筆・編集を中心に、アトリエ「月ノ座」を主宰し、展示やイベント、文章表現や編集、製本のワークショップなども行う。編著に『辻村史朗』(imura art+books)『標本の本–京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)限定部数のアートブック『book ladder』など、著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など多数。2012年から2020年まで京都造形芸術大学専任教員。