アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#147
2025.08

「水」から考える 人と環境

3  肯定した先にある未来 土地と風景の揺らぎのなかで 京都府京都市

6)おわりに 種と糧を受け渡す

 

「Water Calling」というプロジェクトを取り上げ、人と水との関わりを、アートの視点も交えて考えてきた本特集。
惠谷さんへのインタビューでは、地域の風景がどうあるべきか、それについてどう伝えるべきかを考える、多角的な視点を伺うことができた。そこに見えてきたのは「何が正しいのか」を一義的に決めることができない、それぞれの土地に暮らすことの複雑なありようである。惠谷さんは、たとえ答えは出なくとも、揺らぎながら真摯に、豊かさに気づくための種と糧を受け渡そうとする。そこにあるのは、人が各々の風土に生き続けることを肯定し、そのことによって未来へと向かう姿勢である。
SNSやメディア上で、単純で強い言葉が飛び交う現在。水を知り、自然を知り、風土を知ることは、生きることの複雑さに向き合うための方法を、あらためて私たちに教えてくれるのではないだろうか。

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取材・文:櫻井拓(さくらい・ひろし)
1984年宮城県生まれ。編集者。アートに関わる本づくりを行なう。編集した書籍に、『FLUKES ARE NO MISTAKE——タラブックス、失敗と本づくりの未来』(ライブアートブックス、2023年)、せんだいメディアテーク編『つくる〈公共〉 50のコンセプト』(岩波書店、2023年)、瀬尾夏美『あわいゆくころ——陸前高田、震災後を生きる』(晶文社、2019年)など。
写真:衣笠名津美(きぬがさ・なつみ)
写真家。1989年生まれ。大阪市在住。写真館に勤務後、独立。ドキュメントを中心にデザイン、美術、雑誌等の撮影を行う。
企画・編集:村松美賀子(むらまつ・みかこ)
文筆家、編集者。東京にて出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。書籍や雑誌の執筆・編集を中心に、アトリエ「月ノ座」を主宰し、展示やイベント、文章表現や編集、製本のワークショップなども行う。青幻舎のサイトにて「女性と工芸 1900−1945」連載中。編著に『辻村史朗』(imura art+books)『標本の本–京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)限定部数のアートブック『book ladder』など、著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など多数。2012年から2020年まで京都造形芸術大学専任教員。https://note.com/seigensha/m/m03df2469f0f4