アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#147
2025.08

「水」から考える 人と環境

3  肯定した先にある未来 土地と風景の揺らぎのなかで 京都府京都市

1)学術をジャンプさせる

——建築家の方の勉強会で永井さんと知り合って、京都の風土について教えてほしいと言われたことから始まったそうですね。

本当は学術からもう一歩出たいけれど、私にはそうした技術がないので悪戦苦闘してきました。これまで地域の景観についての報告書やパンフレットを出版したりしながら、研究の成果を昇華させられる機会があれば挑戦したいと思っていたので、「Water Calling」はとても良い機会でした。永井さんとは、京都の岡崎や東山の界隈を歩いたり、また桂川・宇治川・木津川の合流域のあたりまで一緒に行ったりしましたね。

——疏水ツアーでは、専門家でありながら、「体感」も交えて知識を開いていこうとする、惠谷さんの伝え方が印象的でした。土地にまつわる知識を、聞く側がイメージしやすいように話してくださって。東山との連続を意識して、小川治兵衛は庭園に意識的にアカマツを植えたそうですが、そのアカマツとクロマツとの違いを、葉先に実際に手で触って確かめたり。感覚や体感も交えて伝える姿勢は、「Water Calling」と共鳴する部分があると思ったのですが。

美術工芸品や歴史資料といった文化財は、基本的には収蔵庫に入れて、空気の温度と湿度を人の手でコントロールしながら守られていくものです。対して、私が相手にしている文化的景観という文化財は、その土地に生きる人たちが、環境と手を取り生み出してきたもので、新陳代謝しながら受け継がれていくものです。そうした暮らし手にとって当たり前のこととして存在する文化財に向き合っているので、伝わるということをとても意識して活動しています。
例えば、報告書やブックレット、パンフレットなどを出版する際にはデザイナーや編集者に関わっていただいたり、鳥瞰図をつくって地域の特徴をわかりやすく表現したり、伝えるための試みをさまざま行なってきました。「Water Calling」に関わって、ウォーキングツアーをしたり、イザベルの絵で伝える表現に触れたりすることで、さらに世界が広がったと思います。

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アカマツとクロマツの分布図を参加者に示す。別荘群のあたりはアカマツがほとんど。アカマツの葉先はさわっても痛くないが、クロマツは痛い。ちなみにアカマツは樹皮を人の手で取り除くことで見た目もきれいに、害虫予防などにもなる

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京都府は琵琶湖疏水の計画当初、南禅寺一体を疏水を利用した水車動力による工業地帯として開発しようとしていた。しかし、疏水の工事の途中、その目的に水力発電が加わった。そうなると、南禅寺のような斜面地に工業地帯を作る必要もなくなり、東山山麓の風致と疏水を生かした別荘が立ち並ぶようになったという。そんな経緯を、実際の土地を見ながらクイズなども織り交ぜながらわかりやすく解説してくれて、すっと頭に入ってくる