これまで2回にわたって、京都と水の関わりをめぐるプロジェクト「Water Calling」を取り上げてきた。書籍、展覧会、地図とメディアを変えつつ、アートと学術の交差するところから展開してきたプロジェクトである。
前回はキュレーターの永井佳子さんとデザイナーのイザベル・ダエロンさんへのインタビューを通じて、プロジェクトの手法と目的地を紹介し、既存の枠組みを前提としない、柔軟な展開に光を当てた。
今回は京都の水から視野をさらに広げて、風土への見方そのものについて考えたい。プロジェクトの協働者・書籍の監修者でもあり、造園学、景観論の研究者である惠谷(えだに)浩子さんへのインタビューをお届けする。惠谷さんはこれまで、都市から農村、山村、海村にいたるまで、全国各地の風景の成り立ちの調査・研究を行なってきた。
2025年2月1日、無鄰菴での展覧会の関連企画として、惠谷さんのナビゲーションによるウォーキングツアーが行なわれた。京都の東山一帯にある歴史的な別荘群を歩き、琵琶湖疏水の流れをたどりながら、水が形作る風景をめぐった。
土地の歴史的な背景や、この地域に明治時代から昭和初期にかけて別邸が数多くつくられた理由、人工的に整備された疏水が自然の水の流れとどう関わっているのか、庭園と関連した植生の特徴に至るまで、豊かな学びを含んだツアーだった。
筆者がツアーに参加して感じたのは、歴史や自然に関する知識を頭で得るだけでなく、「体感」が随所に取り入れられていることだった。坂道を歩くことで疏水の勾配を身体で感じ、水路や川をさらさらと流れる水の音を聴き、東山と連なる特色ある植物に手で触れ、琵琶湖から水が運ぶ生き物の存在を発見することができた。
そんな体感の工夫に満ちた「伝え方」を入り口に、後日、奈良文化財研究所にて惠谷さんにお話を伺った。

惠谷浩子(えだに・ひろこ)
奈良文化財研究所文化遺産部景観研究室長。1983年生まれ。専門は造園学。京都や宇治、四万十川流域をはじめとする全国各地の文化的景観の調査研究に携わり、土地の自然、地域の来歴と現在から、それぞれの地域らしさと持続のあり方を探求している。共著に『地域のみかた-文化的景観学のすすめ』、『都市の営みの地層-宇治・金沢』など。日本造園学会田村剛賞、日本イコモス奨励賞、造園大賞を受賞。