アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#143
2025.04

社会を変えるデザイン

3 みんながつながる 地区の家 イタリア アレッサンドリア
1)人とかかわる 関係性をつくる

この日、ファビオ・スカルトゥリッティさん(以下、ファビオさん)は駅まで迎えに来てくれた。地区の家のコーディネーターであり、社会学と教育学を修めたソーシャル・エデュケーターでもある。

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ファビオ・スカルトゥリッティさんと多木陽介さん

さっそく、目抜き通りに入った。老舗と新しい店の入り混じる通りは、落ち着いた雰囲気ながら華やぎもある。ファビオさんはゆっくりと歩きながら、多くの人々とあいさつを交わしていく。友人や顔なじみの老人。市長もいれば、若者も、移民もいる。新しく店を始める準備をしている人も、路上でポップアップの店を開いている人も。ふだんからどれだけたくさんの人とかかわっているのか、ファビオさんの日常が少し想像できる。

———自分たちと同じような活動をしている人たちだけじゃなくて、この地域の人たちみんなで、ここで時間を過ごすわけですから、その人たちと関係性をつくっておくことは大事だと思っています。いろんな人を知っていることで、みんながいろいろ教えてくれたりするし、自分たちの仕事がしやすくなります。新しく店ができたら、そこの人を知ることも、誰が手伝っているのかを知ることもすごく大事なんです。

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中折れ帽で有名な帽子のブランド「ボルサリーノ」に立ち寄る。地元アレッサンドリア創業の老舗で、ファビオさんは季節の変わり目などに帽子を買う。「唯一の贅沢なんです」

商店街は賑わっている。店の人たちもいきいきとして、一軒一軒が魅力的だ。「商店街の人たちも、これまでは行政がどれだけやってくれるか、お金をくれるか、もらえることばかりを考えていたけど、そうじゃないでしょ、と。自分たちが地域のために何ができるか、考えてみようという提案を私たちがして、最初はみんな戸惑っていたけど、今はすごく積極的になってきていいです」。

途中、店の軒下にホームレスの人が座っていた。ファビオさんが近寄って声をかけると、その人もにこやかに受け答えしている。ファビオさんはアレッサンドリアのホームレス全員を把握していて、週3回は夜の見回りを行い、薬や寝具を渡すなどケアをしているという。日ごろのこまやかなコミュニケーションがあっての笑顔なのだ。
店主たちも、今ではホームレスの人がやってきても、警察ではなく、まずファビオさんたちに連絡するようになったという。彼らを排除するだけでは解決にならない。オルタナティブな選択肢があることを知って、店主たちの認識も変わってきている。

商店街の賑わいは、ゆっくり10分も歩けばおしまいだ。そこからはシャッター街が取って代わる。この30年でアレッサンドリアの人口は減りつづけてきたが、移民や難民は増えつづけている。塗り変わっていく地図のなかで、ファビオさんたちは15年以上にわたり、地道に、さまざまな活動を続けてきた。いずれも、誰もが人間的に生きられるまちを目指す取り組みである。昔からの住民はもちろん、移民やホームレスをはじめ、社会的な弱者も。その中心にあるのが「地区の家」だ。_W1A2941-2

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どこに行っても笑顔でやりとりするファビオさん。分け隔てない / シャッターが閉まっている景色も絵になるが、やはり寂しい。ちなみにアレッサンドリアはイタリアで初めて自転車が来たまちで、自転車文化がさかんだった。今はもう工場もない